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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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月夜のピアノ・マン(その3)


 白い砂を竹箒で掃きながら、落ち葉って秋だけのものじゃないのだなあとしみじみ思った。そういえば、松とかスギは季節関係なくちょっとずつ新しい葉と交替するって習ったような。でも桜とかケヤキとかの葉っぱもけっこう落ちてるなあ。毎日掃いても毎日降って来る。
 私の3メートル先にニワトリの家族がいる。こんな白砂に餌なんかあるかな、と思うけど、何かほじくったり啄んだりしている。このニワトリ達は神社の番犬代わりらしい。気が向くと桜さんの野菜畑の周りに卵を産む時もあるが、だいたい回収されずに勝手にひよこになって、勝手に育って新たななわばりを作って、神社を囲む森全体に散らばっているそうだ。ひよこが全部育ったら大変じゃないかと思うけど、そこは弱肉強食で食べられたり食べたりしている、とのことだ。
 ニワトリは新参者の私を見張っているのか、それとも私をガードしてくれているのか、とにかくどの道から神社に帰って来てもどの群れかのニワトリが現れて、つかず離れずついて来る。


どうせ明日も葉っぱが降るんだから、このぐらいでいいかな、と伸びをしていると咲(えみ)さんの声がした。
「瑠那ちゃーん。またちょっとお使い頼んでいい?」
「はーい」
 竹箒を軒囲いに立てて家に入ると、声が聞こえた二階にトントンと上がった。
「ごめんね。佐々木さんが先週来れなかったから、これから浴衣の続きを仕上げに来るのよ。橘さんと吉野苑さんに用事があるんだけど」
 咲さんは、実質この神社の主婦だ。大人数の織居家を切り盛りしつつ、この桂月庵で週3日はお茶、2日はお花、不定期で和裁を教えている。ご主人と息子さんがひとり、関東にいるので、月に1、2度は行き来しているそうだ。私が初めて住吉神社に来た時も、咲さんは留守だった。
 午後のお教室が終わったところで、咲さんは着物を着ていた。ウェーブのある髪を短めに切り揃えていて、ふっくらした体付きと、ふんわり丸顔の咲さんは私の描く、”お母さん”というもののイメージそのものだった。
「このメモを持って行ってね。ここにそれぞれの曜日に届けてもらうお菓子の数を書いてあるから。生菓子の春の新作が4種類出てるんですって。橘さんで見せてもらって、どのお菓子をどの曜日にするか決めて来て欲しいの」
 橘さんは神社の参道沿いの老舗の和菓子屋だ。咲さんやサクヤさんと一緒に何度も行ったことがある。どういうわけか、私が行くといつも大歓迎していろいろ試食させてくださるので、何だか申し訳ない。
「月曜は年配の男性が3人いるから、しっかり甘いお菓子がいいわ。火曜はOLさん中心の会だから華やかな可愛い感じの。木曜は中学生だからちょっと洋菓子っぽいのでもいいかも。瑠那ちゃんの好みに任せるけど、私も食べてみたいから2個ずつ買って来てね」
 そもそもお菓子は配達なのだし、用事は電話で事足りる。それでも私をお使いにやるのは、多分、私が町に早く慣れるように、という気遣いなんだろうなと思う。
「それから、吉野さんとこで花材の注文して来て。リスト、こっちね。それで、桜さんのお部屋に飾る花を見繕って来て欲しいのよ」
「また何かいい香りの花にしましょうか」
 咲さんの顔がぱっと明るくなった。何だか喜んでいる。
「そうなの。よく気がついたわね。桜さん、香りのいい花が好きなのよ」
 スイセン、ストック、ジンチョウゲにフリージア。住吉の大奥様の部屋にはいつも花の香りが満ちている。

 お菓子を試食して、お花を買って来るおつかい。優雅な仕事だ。

「あ、緋袴のままで出ちゃダメよ」
 咲さんがそう言い出したので、私はぎくっとした。そんな私の顔を見て、咲さんがぷっと吹き出す。
「大丈夫。今日はこれ。桜さんの子どもの頃のものですって」
 若草色に花を散らした着物だった。
「でもこれ、いい着物なんじゃ」
 私が言うと、咲さんはにこおっと笑った。うーむ、似てない親子だと思ってたけど、この笑い方は確かに鷹史さんとそっくりだ。
「着物は着ないと。普段着だから心配しないで平気よ。おいで。苦しくないように着付けてあげる」
「でも、いつもこんなにいろいろ着せてもらって」
 普通の小学5年生はもっとぞんざいな服で走り回ってるんじゃないだろうか。
「いいのいいの。瑠那ちゃんは、うちの看板娘なんだから。このコートは私が仕立てたのよ。聞かれたら宣伝してね」
 明るい菜の花色の和装コート。組紐はあさぎにピンク。
「瑠那ちゃん、来てくれてホント良かったわあ。いっつも言うけど、うち、男ばっかり3人でしょ、女の子が欲しくって。毎日、ホント楽しいのよ? さっちゃんは大きくなっちゃったから、子どもの着物はこれから瑠那ちゃんが着てあげてね」
 もともと関東の人だからか、咲さんは関西弁が出たり出なかったりする。私が住吉に来た当初、咲さんは本気で喜んではしゃいでくれて、何とかハウスのレースどびらーっとついたワンピースとかバレエのコンサートとか、せっせと私にプレゼントしてくれた。レースどびらーにも度肝を抜かれたけど、咲さんがサポーターをしているというバレエ団のリハーサルで、ものすごい目張りメイクともっこりタイツに腰を抜かしてしまい、最近はちょっとクールダウンしている。バレエの衣装とか音楽とか、物語の背景とかは面白そうだったんだけど、傍で見るとシューズの音が大きかったり、メイクがあれだったりで、ビビッてしまった。咲さんは、どうやら私にバレエを習って欲しかったらしい。
 住吉に来て以来、私はすっかり女性陣の着せ替え人形だ。桜さんは着物を取っ替え引っ替え着せてくださるし、葵さんのお姉さんの紫(ゆかり)さんは何かファッション関係のお仕事らしくて”サンプルだから世界中でまだ誰も着てない服よ”なんて言ってお洋服をくださる。さすがにプロで、小学校で着ても浮かない、実用的できちんとした服ばかりだ。私の9歳上の義姉、サクヤさんの趣味は意外や洋裁と編み物だそうで、地味だけどちょっと凝ったデザインの服をくれた。咲さんの和裁、お花、お茶の弟子をしながら、神社では袴、家では着物の和服生活なのに。
 ホームでもきちんとした服を十分にそろえてもらっていたし、食事やお菓子でも不満を感じたことはなかった。でも住吉に来て以来、何だか毎日がクリスマスか誕生日みたいで、正直ちょっと困惑している。そのうち何か悪いことが起こるんじゃないだろうか。
 初めての着物や服を着せられて、『可愛い』と言われる度に私が顔をひきつらせるので、みな気を遣って慎重に『可愛い』というワードを回避するようになってしまった。申し訳ない。いや、社交辞令だってわかってるんだけどさ。大した意味が無いってわかってるんだけど、でもさ。可愛かったら、小学5年生になるまで施設でもらい手がつかないはずないじゃない? わかってるんだから、いいのよ、無理に褒めてくれなくても、なんていちいち引っ掛かってしまう。
 
 下宿人ののん太に最初に『可愛い』と言われた時、私は逆上してホースで水をぶっ掛けてしまった。どうしてあんなに反応しちゃったのか、自分でもわからない。のん太は、新顔の私をしょっちゅうおちょくったり、ちょっかい出して来た。面倒なヤツだなあ、と警戒してかわしていたのだが、『可愛い』と言われた時かわし切れなかった。水をぶっ掛けて部屋に逃げ込んだ後、なぜだか涙が出てきた。バカバカ。バカのん太。私はもらわれたからって浮かれたりしない。自分が可愛いわけじゃないってわかってる。このうちは、桜さんとサクヤさん、2人病気の人がいて、お手伝いが必要だったのよ。養女だからって、本気でこんないいおうちの娘になったつもりになんかならない。分をわきまえて、ちゃんと仕事するわ。役に立っていれば、捨てられたりしないはず。
 そこまで考えて、またボタボタ涙が出て来た。信じない。私を本気で娘にしたがる人がいるなんて、私は信じてない。信じなければ、がっかりしないもの。

 その後、のん太は水掛けられたことに怒るでも無く、私の泣き顔を見ただろうに突っ込むでも無く、何事もなかったかのように相変わらず私にちょっかい出してくる。バカなヤツ。キューテイコク大の大学院生って、もっと頭がいいものじゃないの?

 桜が満開のあの日、私は人魚を拾ったつもりで拾われてしまった。
 年度が変わるからちょうどいい、とばかりにあっという間に養子縁組、転校が決まってしまった。子供が小さいうちは馴染まなくて泣く子が多いから一週間から一ヶ月ぐらいのテスト期間を設けたりする。私の場合は、3日間、試しに住んでみて、大丈夫かどうか決めることになった。

『大丈夫かどうか、瑠那ちゃんが決めて。私たちの気持ちはもう決まっているから』
 葵さんがそう言った。
『でもこのうちは、何かとちょっと変わっているの。絶対に合わない人もいると思う。だから3日間』
 ちょっとどころでなく、変わったことだらけだった。でも楽しかった。たとえ看護婦代わりだろうと、自分を必要だと言ってくれて歓迎されることがうれしかった。
 お化けホームを出て、お化け神社に。ホームの怪談はただ正体もわからずブキミなだけだったけど、どうやらこの神社はホンモノらしい。上等だ。相手してやろうじゃない。


 春色の着物にあけび弦の籠を下げて、慣れない草履でパタパタ神社の石段を下り始めたところに、下から声がかかった。
「お。瑠那、買い物か? 荷物持ち要るか?」
 相変わらずヘラヘラした男だ。肩まで伸びた髪を、今日はひとつにくくっている。薄手のコーディロイのジャケットに、革のディパック、革の靴。アイビーファッションってやつなのかしら。だいたい大学院生ってこんな早い時間に帰って来ていいのか? 死に物狂いでベンキョーするために院生になるんじゃないの? とはいえ、のん太のいる離れの部屋の灯りがいつも明け方近くまで点いているのを知っている。部屋の床が抜けそうなぐらい、本が積んであることも。
 高山望(のぞみ)。葵さんや桜さん達はこいつをノンちゃんと呼ぶ。咲さんの妹さんの息子だ。高校からこの神社で下宿しているらしい。鷹史さんの弟の麒治郎さんが、のん太と呼ぶので、私ものん太と言うようになった。ちなみに麒治郎さんは、サクヤさんに習ってきーちゃんと呼ぶ。
「荷物なんてないもの。和菓子とお花だけ。ガクセーはガクセーらしく勉強しなさい」
 この家で私がこんな憎まれ口を叩けるのは、そう言えばこいつだけだ。
「橘さんか。いいなあ。俺、あそこの金つば、好きなんだよなあ」
「あんたのオヤツの分はお金もらってないわよ」
「自分の分ぐらい払うさ」
 いつもの応酬をしていたら、のん太がいきなりバランスを崩して石段を転げ落ちそうになった。
「おまっ。いきなり乗るなっ。だいたい誰かに見られたらどうする」
 何とか体勢を立て直したのん太の肩に、鷹史さんがぶら下がっていた。いつもこんな風に空間からいきなり現れる。そしていつも、私を見て5歳児みたいな顔でにこおーっと笑う。
 いつものようにガミガミお小言を言っているのん太に、鷹史さんがメモ紙を差し出す。
「え? ああ、桜さんの買い物か。うわ、何このリスト。こりゃ、荷物持ちが要るな。しかも2人」
 のん太がにぱあっと笑った。鷹史さんもにこおーっとした。

 何の罰ゲーム。王子さま2人連れて、参道一周引き回しの刑。


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