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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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月夜のピアノ・マン(その11)


 その夜はそれ以上、葵さんから鷹史さんのことを聞き出せなかった。
 葵さんは”ごめんね。こんなこと、瑠那ちゃんに言うつもりじゃなかったのに。こんな頼りない母親でごめんなさい”と涙ぐむばかりなので、私は追求をあきらめた。気分転換に一緒にいろんな街の写真やスライドを見た。どの街にもそれぞれ魅力があって憧れをかきたてられる。いつか行けるだろうか。行けるような大人になれるんだろうか。夢のように遠い希望の気がする。葵さんは自分で行った場所だけでなく、様々な国の写真集や地図などをコレクションしていて、いつでも見ていいと言ってくれた。
「葵さん、この資料は研究で使うんですか?」と聞いてみた。
「そうね。研究でも使うけれど」
 何だかまた寂しそうな笑顔。私は少し待ってみたけど、それ以上の言葉は出てこなかった。葵さんには秘密が多い。

 葵さんの書斎から出てみると、廊下にのん太が立っていた。口に指を当てている。葵さんには内緒の話がしたい、ということらしい。あんた何やってんの。こっちこそ話があるわよ。
離れの図書室に入ると、のん太がこぶ茶とゴマせんべいを出してくれた。ふう。葵さんと2人でいる間、けっこう自分が緊張していたと気づいた。だってあんなに傷ついて怯えた人に不用意なことなんか言えない。
「のん太、あんた、何やってんの」
「うん? うん。いや、瑠那の方こそ、葵さんのこと気にしてただろ」
「だってなかなか話せなかったんだもの」
「うん」
「もっと話したかったのに」
「うん」
 2人でしんみりこぶ茶をズズズとすする。ふう。私、ホント何やってんだろ。自分のことばっかり一生懸命で、この家のこと、いまだに何もわからない。

「ねえ。のん太、あんた、鷹史さんが葵さんに何言ったか、聞いてるの?」
「うん? うん。だいたい」
「どういうことなのか、わかる?」
「うん、まあ、だいたい。俺も6歳からここの連中と付き合ってるけど、わからないことの方が多いな。はっきりわかってるのは、10年前によくわからない理由で新さんが消えた、ということだけだ」
「やっぱりわからないの?」
「うん」

 人がひとり消えるって。突然に、何の準備も無く、今まで隣にいた人が消えるって。どんな気持ちがするのか想像できない。納得なんかできないだろう。
「鷹史さん、どうしてあんな事言ったと思う?」
「葵さんにあきらめさせるためだって、言ってた。新さんが消えて、葵さん、半狂乱で探してたから」
「ああ」
「新さんが消えた時、この神社のご神宝の宝珠が盗まれたんだ。桜さんはそのせいでここの結界が歪んだ、と言ったものだから、葵さんは宝珠さえ取り戻せば新さんが帰って来ると信じてた。それこそ世界中駆け回って、宝珠と新さんを探してた」
「あああ」
 あの資料。あれは新さんを探すためだったのか。
「鷹史に言わせると、帰って来る可能性はほとんど無いんだそうだ。俺にはわからないけど」

 鷹史さんが連れて行ってくれた、星空のような海の底。新さんはあそこにいるのだと言ってた。私と同じように、鷹史さんが葵さんをあそこに連れて行ってあげれば、2人は再会できるってもんじゃないの?
「瑠那、お前、このうちのこと、どのぐらいわかってる?」

 私は疑問に思ってることを、全部のん太に聞いてみた。そういえば、このうちの不思議なことを客観的に話せるのはのん太だけなのだ。

 私の話を聞いたのん太はにいっと笑った。
「なるほどね。お前、なかなか勘がいいよ。それにすごく公平に見てる。瑠那、研究者に向いてるかもな。こんなややこしい状況に巻き込まれて、混乱もせず冷静に分析してるよ。大したもんだ」
 褒められて少なからずうれしかったけど、でも誤魔化されない。私は疑問の答えが欲しい。
「うん、わかってる。でも俺にもよくわからないんだ。だからお前はお前の目で見てお前自身で判断してくれ」
「でも」
「もちろん、俺のわかったことは情報共有するけど。お前も何かわかったり、感じたことを俺に教えてくれ。俺は仲間が必要なんだ」
「仲間?」
「俺と鷹史は血の繋がらない従兄弟なんだ。血は繋がってないけど、ここんちのメンバーのことは、謎な部分も含めて気に入ってる。だから助けたい。瑠那なら味方になってくれると勝手に期待してるんだけど?」
「味方、ね」

 私は釈然としないまま、今一番気になってることを聞いてみることにした。
「のん太、あんた、マザコン?」
「え? ああ、そう言われれば俺、マザコンかもな」
 あっさり認めるところをみると、マザコンじゃないらしい。つまり、葵さんのことも母親代わりに慕っているわけじゃないわけだ。
「俺さ、俺の母親、2歳で亡くしてるんだ。ガンでね。だから実をいうとあんまり母のことは覚えていない。母が具合悪くなってから、俺と兄貴の面倒見てくれたのが近所に住んでた、今のおふくろだ。つまり俺もまあ、もらわれっ子みたいなもんで、だから勝手に瑠那のことを仲間だって思ってた」

 そっか。だから、よく私にかまってくれてたのか。

「おふくろの姉さんが、鷹史やキー坊の母さんってわけ」
 だから血の繋がらない従兄弟なのか。
「俺の母親、小さな図書館の司書だったんだけど、そこ、フリースクールというか、登校拒否児童の駆け込み寺みたいになってたんだって。で、俺のおふくろは中学、高校のほとんど、その図書館で過ごしてたらしい」
「どうして」
「ほら、咲(えみ)さんてすっごい巫女パワーの人なんだろ。桜さんに匹敵するぐらいの。そういう家系らしんだ。で、おふくろもそういう能力があるんだけど、使いこなせなくて、人が集まるところにいてもイヤなものが見えるばかりで」
「あああ」
「俺の母親に会って救われた、ってよく話してくれた。病床で、俺たちのことを頼むって言われたらしい。でも、俺の父親と再婚したのは想定外だったんだってさ」
「へえ」
「オヤジが今でも時々ボヤくもん。おふくろは俺と兄貴が気に入って結婚しただけで、自分はオマケだって」
「へええ」
「俺の兄貴、おふくろに懐いてたくせに、オヤジと再婚した途端に反発するようになっちゃって、おふくろ、けっこう気苦労したんだ。それで俺、あの年頃の女の人のこと、守らなきゃって思っちゃうのかもしれないな」
 今のお母さんの希(のぞみ)さんと、葵さんが同い年らしい。
「俺の母親は、もちろん霊力なんか何も無くて、おふくろの家の事情なんか何も知らなかった。でもただ毎日、図書館で笑顔で迎えることでおふくろを支えたんだ。俺も、ここの人間にとってそういう存在になれたらって思ってる」

 のん太、あんた何やってんの。そんなの、こじつけ。理屈の後付けでしょ。私知ってんのよ。あんたが徹夜でレポート書くの、あれ、悪い成績取ったりして他の人に葵さんのこと『身内ひいき』だとか言わせないためなんでしょ。”頭の中で混ざる~”とかぼやきながらフランス語だのイタリア語だのラテン語だの勉強してんの、あれ、葵さんの探索を手伝うためなんでしょ。

 あんた、葵さんが好きなんじゃないの。そんな優しい顔で、深い声で、葵さんの話、してんじゃないわよ。

 そして、私は何やってんの。自覚もないまま、初恋で失恋なんて。

 その晩はいろいろ考えてしまってなかなか寝付けなかった。布団で横になっていても、葵さんやのん太のセリフを思い出すばかり。あきらめて台所に下りてむぎ茶を飲んだ。甘い味にほっとする。土間に面した黒光りする木の廊下は裸足に気持ちいい。よく風が通って虫の声が聞こえてくる。ビーッとやかましいのはオケラの声だと、サクヤさんが教えてくれたっけ。ジャッジャッジャと大きな声はタンボコオロギ。裏庭から聞こえるリッリッリーという声はシバスズ。遠出できないサクヤさんは、この神社から半径5キロぐらいの小さな世界で豊かに生きている。でも私は、もっと遠くを見てみたい。

 虫の声に混じって、ポロポロ音がする。ピアノ? 耳を澄ますと、ひと繋がりで何かの曲のように聴こえる。でも虫か水の音のような気もする。どこから聴こえるの? 私は土間の草履をつっかけて、十七夜の月の光が降る庭に出た。
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目次(ヴァル)
「姫おり」過去編
織姫のお仕事
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カルミノ編 1日目 『桜降る夜の森に』 2日目  『雷鳴の封印』  『拾い子』  『森の中の星空』 3日目  『再生の呪文』  『春日なる』 4日目 祝宴 お茶会  『おすそわけ』  
イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
 出口1
『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

カルミノ編 前夜祭 『Happily Ever After』01 1日目 『Happily Ever After』02 『Happily Ever After』03 『Happily Ever After』04 『Happily Ever After』05 2日目 『Happily Ever After』06 『Happily Ever After』07 3日目 4日目 祝宴 お茶会  『romanesque』
イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
シュアラ編 『Front breaking』 『Dell'oscurità per brillare』 『End symptom』 【露癒の祀】 拾壱>拾弐
エイロネイア編  『daily workⅠ』 『覚醒ヒロイズム』 EPISODE1 EPISODE2
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