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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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月夜のピアノ・マン(その5)

「瑠那ちゃん、あなたとお話したかったの」
 岩永さんのお母さんが私の手を握って、児童文学コーナーの隅のベンチに誘った。無理に引っ張られたので、ネイルの飾りが私の手に食い込んで痛かった。岩永さんも妙に明るいニコニコした笑顔で並んでベンチに座った。うーむ。私はさながらサバンナのガゼル。メスライオンと子ライオンに狙いをつけられたってところだ。


「さ、座って。私、あなたにお話することがあるの」
 私は手に下げていた蘇芳色の巾着を、床に置いたあけび弦のカゴにそっと入れた。蘇芳色は着物に散らした小花の色とリンクしていて、いいワンポイントでしょと咲(えみ)さんが笑った。
「あのね、あなた、織居の家の人からちゃんと話してもらってる? 説明されてないんじゃないかと思ったのよ、あの家の事情」
 岩永さんは私の腕を掴んで私に覆いかぶさるように顔を近づけて熱心に話す。声を潜めているようで、かん高い声はけっこう周囲に響いていた。ほら、あそこのお兄さんがこっちを見ている。こっちの女子高生達も。
「私、あなたを助けたいの。あの家から救い出してあげたいのよ、瑠那ちゃん」
 私は用心して、というよりやや圧倒されて何もしゃべらなかった。この人はどうしてこんなに一生懸命なんだろう。私に何の関心があるんだろう。

「あの家、変でしょう? 不可解なことばかり起こるのよ、あの神社では」
 それは私も否定しない。ヘンテコなことばかりだ。でもそれは知ってる。あそこの人たちはそもそも私に隠そうという気がないみたいだ。目の前で平気で変身したり空を飛んだりしてるもの。
「あなたは知ってるの? あの神社にはおかしな言い伝えがあるの。よく人が死ぬのよ。それに神隠し」
 それは聞いた。いろんなソースの情報があった。お化け神社と呼ばれているって。天狗が子供をさらうって。長い黒髪の女の幽霊が出るって。社を囲むあのほの暗い森なら、夜に迷い込んだ肝試しの子供がお化けぐらい見ても不思議じゃない。それに、お化けじゃなくて、黒髪美女から67歳の美魔女に変身する桜さんかもしれないし、空をぷかぷか浮かぶ鷹史さんかもしれないし。
「どんな人が消えるか知ってる? 小さい子供、それから臨月の女の人、そして、よそからあのうちに来た人」
 私はドキンとした。
「瑠那ちゃん、あなた、どうして自分が選ばれたと思う? 私少し調べたの。あのホームであなただけ、本当に親戚もいない、天涯孤独。あなたに何かあった時に訴訟を起こしそうな人間がいない。後腐れがないからよ」
 何かあった時。何かって何?
 岩永さんは声を潜めて、ことさらに私に顔を寄せてささやいた。恐怖に見開いたように見えるその目はキラキラして、なぜかとてもうれしそうに見えた。
「あなた、このままあの神社にいたら、殺されるわよ」

「ただの言い伝えじゃないの。あなた、葵さんの弟さんが5歳で亡くなったの知ってる? そして葵さんのダンナさんも」
 葵さんのご主人のことは、何も聞いてない。聞いちゃダメかな、と思って。そのうち話してくれるだろうと思ってた。
「ご遺体もないのよ。ただ、消えたの」
 ドキン、ドキンと心臓の音が大き過ぎて、声が時々聞こえない。
「あなた、すごくいいお洋服着せてもらってるんですって? 今日もほら、正絹の小紋。小学生の遊び着に普通こんないいお着物選ばないわ」
 それは私も思ってた。どうしてこんなにちやほやしてくれるんだろうって。私が可哀想だから? それは親がいないから? それとも。
「あの神社の人たちは、あなたを身代わりにする罪悪感と哀れみで、こんな贅沢をさせてるんだわ」

 身代わり。
 誰の身代わり? 私は誰の代わりに死ぬの?

「お嬢さん、赤ちゃんが生まれるんでしょう。咲さんも葵さんも、初孫を守りたくて、だから生贄にあなたをもらって来てちやほやしてるのよ」

 叫びたいけど、声が出ない。そんなこと信じない。この人は、織居の家が嫌いでイジワルが言いたいだけだとわかってる。でも。

「ウソです! 咲先生がそんなこと、するわけない!」
 私の代わりに叫ぶ声が聞こえた。
「ナルちゃん」
 鳴海さんが、両手をにぎりしめて、ベンチの横に立っている。今まで全然気付かなかった。
「咲先生、私をなぐさめてくれたんです。私、岩永さんにみんなの前で白ブタって言われて、女の子みんな、給食に豚肉が出るたびにブーブーって私の方見て笑って、残飯食べればいいとか陰口言われて」
 ナルちゃんの声がだんだん大きくなって来て周りの人がこっちを見ている。ナルちゃんは太ってない。ちょっとぽっちゃりして色白だけど、別に肥満体型とかじゃ全然ない。ただ大人しくて言い返せないから、一方的にからかわれているのだ。
「こんなこと、お母さんにも話せなくてお茶のお教室の隅で泣いてたら、咲先生がお茶を淹れてくれて、ゆっくり話を聞いてくださったの。ふくよかでなで肩で、お着物が似合うって。だからもう気にしないでって言ってくれたのに」
 ベンチコーナーにはすっかり人だかりができてしまったが、鳴海さんは気づいていないようだ。
「ナルちゃん、私、本気で言ったわけじゃ」
 岩永さんが言いかけたけど、ナルちゃんは聞いてない。
「今年も岩永さんと同じクラスになってしまって、織居さんと話しちゃダメって言われて、でも藤田さんと一緒に瑠那ちゃんとおしゃべりしたら、またブーブー囃されて仲間はずれにされて……」
 ガマンできずに鳴海さんの両目からボタボタ涙がこぼれ始めた。
「なのに、今度は岩永さんのお母さんまで、こんなこと、ひどい、瑠那ちゃんにこんな、どうしてこんなひどいこと」
 鳴海さんは私にしがみついて泣き始めた。
「ごめん。瑠那ちゃんごめんなさい。あなたを守れなくてごめんなさい」

「えりな、あなた、学校でそんなこと」
「ママ、違うの。私」
 私たちをそっちのけで親子ゲンカが始まっていたが、私の耳には入らなかった。鳴海さんの謝る声も聞こえなかった。
 心臓が痛い。頭がガンガンする。身体がどんどん冷たくなる。

「瑠那」
 私の肩をポンと叩いたのは、のん太だった。いつの間にか、サクヤさんも鷹史さんもいる。
「瑠那、帰ろう。岩永さん、いいですよね、もうお話は終わったんでしょう」
「え」
 人だかりと、のん太達に囲まれて岩永さんはうろたえている。
「瑠那、あれ、今日持って来てるか?」
 私はぼんやり頷いて、屈んでカゴから巾着袋を取り出すとのん太に渡した。巾着袋の中にはICレコーダー。のん太が私にくれたものだ。


 小学校に行き始めた時、のん太が”お前、イジメられたりしてないか?”と聞いたのだ。
 私は否定も肯定もしなかった。ウソを言うのはイヤだったけど、子供同士のことを大人に言いつけるようなのもイヤだった。
 のん太が言うには、サクヤさんも小中高とイジメられ生活だったらしい。”お前は泣き寝入りするなよ。さっちゃんの敵を取ってやれ”とICレコーダーを渡されたのだ。


 のん太は岩永さんの目の前でレコーダーを再生して見せた。
”生贄にあなたをもらって来て”
 岩永さんは真っ青になったり真っ赤になったりしていた。レコーダーが無くても、周りでたくさんの人が今の騒ぎを聞いていた。後で聞いたが、岩永さんのお父さんは市議会のえらい役職にいる有名人らしい。

「何の目的で子供を脅かしてるのかわかりませんが、うちの瑠那は返してもらいます。さ、君も行こう。こんなとこ、出よう」
 のん太が私と鳴海さんの肩を支えて、本屋から連れ出した。鷹史さんがタクシーを捕まえて来て、みんなで乗り込んだ。車の中で、鳴海さんはずっと泣いていた。泣きながら、”ごめんね”と繰り返していた。
「瑠那ちゃん、大丈夫? すぐうちやし」
 サクヤさんがひんやりした手で私の手を握ってくれた。でもその声は遠くから響くようだ。自分の手がカタカタ震えているのがわかった。
 本当にあっという間に家に着いた。タクシーが咲さんのお教室の裏手に着くと、咲さんが飛び出して来て私と鳴海さんを抱きしめた。でもそれも遠い国のことのよう。

 私はそれから3日寝込んだ。知恵熱か、環境が変わった疲れだろう、とお医者さんに言われた。目を覚ます度、枕元にいろんな人が座っていた。葵さん、桜さん、咲さん、サクヤさん、のん太、きーちゃん、鷹史さん、光さん。
「ナルちゃんは?」
 のん太が隣にいた時、聞いてみた。かすれた上ずった声しか出なかったが通じたようだ。
「咲さんが家を知ってたんで、車で送ってった。あっちの親御さんに事情説明して来たって」
 良かった。これですっかり解決ってわけじゃないけど、おうちの人が味方になってくれるなら、ずいぶん気持ちが軽くなるだろう。
 葵さんは私の枕元でぱたぱた涙をこぼして泣いていた。あーあ。だから言いたくなかったのに。葵さんはくり返し、”ごめんね。瑠那ちゃん、ごめんね”と言っていた。葵さんのせいじゃないのに。

 いいの。私、納得した。腑に落ちた。そうか、身代わりか。そうよね、それぐらいしか、私、役に立たないものね。

 熱に浮かされてそんなことを考えていた気がする。ノドが乾いて目を覚ますと、部屋が暗かった。家が静まり返っているところを見ると、夜中らしい。身体がギシギシ言うのを、何とか腕を伸ばして枕元のお盆に手を伸ばした。
 うーん、届かない。もうちょっと。

 私の伸ばした指先に、すとっとお茶のカップが来た。あれ。
 急に身体が軽くなった。私は身体を起こしてお茶をひとくち飲んだ。甘い。すうっとノドを通って熱を冷やしてくれる。夢中でカップ一杯飲み干してしまった。

 そこで初めて気がついた。布団がない。いや、床がない。もっと言うと天井も屋根もない。私は宙に浮いていた。満天の星の中に。

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織姫のお仕事
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イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
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すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
 出口1
『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

カルミノ編 前夜祭 『Happily Ever After』01 1日目 『Happily Ever After』02 『Happily Ever After』03 『Happily Ever After』04 『Happily Ever After』05 2日目 『Happily Ever After』06 『Happily Ever After』07 3日目 4日目 祝宴 お茶会  『romanesque』
イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
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