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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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月夜のピアノ・マン(その6)


 天の川だ。
 きらきら金の砂。銀の砂。すくってみると指の間を通り抜けた星がことさらにきらきら光る。

 ひとしきり遊んでようやく気がついた。星がすくえるわけがない。第一、星空に浮かんで息ができるはずがない。

 そうよね。ここどこ。ここ何?

「竜宮」




 自分ひとりだと思い込んでいたので、すぐ隣で声がしてびっくりした。しかも声の主は、今まで一度も声を聞いたことがなかった人間だった。

「鷹史さん!」

 あぐらをかいて空中にぷかぷか浮いている。かくいう私も星をすくいながら宙を漂っている。ここには上も下もない。

「竜宮って何? ここ、海の中ってこと? 鯛やヒラメが舞踊りってやつ? 織姫さまとかいるの?」
「そ」

 初めて聞く鷹史さんの声は、何というか違和感がなかった。頭の中で想像した通り、というか、想像した声をこっちて勝手にあててる、そういう感じ。

「ふーん。じゃあ、あれもある? 玉手箱」
「もちろんある。竜宮だから」

 熱が下がって身体が楽だった。ここは温かくも寒くもない。いい気持ち。私は遊園地にでも紛れ込んだように楽しかった。だって星の間を漂っていて、鷹史さんがしゃべっている。これが夢でないわけがない。何だかいろいろイヤーな面倒くさいことがあった気がするけど、もういいや。
 鷹史さんが口笛を吹くと色とりどりの魚が集まって来て、小鳥のように宙を飛びながら私たちの周りをすり抜けていった。綺麗で夢みたい。TVでしか見たことない珊瑚礁の明るい海のようだ。透明な水に鷹史さんの銀色の髪がふわっと浮き上がってきらきら光っている。金色の目がことさら明るく見える。
 夢みたいだけど夢じゃない。夢にしては鮮明過ぎる。ここはどこなんだろう。私はいったいどこに来ちゃったんだろう。

 私はごくりと唾を飲み込むと、覚悟を決めて聞いてみた。
「竜宮って何? 私、帰れるの? 帰ったら、何百年も経ってるとか、玉手箱開けたらお婆さんになっちゃうとか、そういうこと?」
 いつもみたいに5歳児みたいな顔でにぱと笑ってくれると思っていたのに、鷹史さんは私の方を見ない。ずっと遠くを見ている。ずっと下の方。海の底の暗がりを。

「瑠那は帰れるよ。俺が連れて来たんだから。それにひとりでここに来ちゃうこともない。ここに捕まることもない」 
「捕まる……人もいるのね?」
「そう」

 鷹史さんの視線の先。真っ暗な奈落の底から何か聞こえてくる。歌声のような、オルゴールの音のような、幽かな音楽。
「うちには、時々、竜宮とつながっちゃう人間が生まれるんだ」
「つながっちゃう?」
「そ。つながり方はそれぞれだけど、ただここが見えるだけだったり、この音が聞こえるだけだったり、あるいは身体ごとここに来てしまって……」
「捕まる?」
「そう」

「桜さんや葵さんは、瑠那に秘密にしてたわけじゃない。騙したわけじゃない。説明しようがなかっただけだ。どうしてつながってしまうのか、俺たちが教えて欲しいぐらいだ」
 いつもニコニコ子供みたいに笑っている鷹史さんが、今は年相応に見える。
「ここ、何なの? ホントに海の底ってわけじゃないわよね?」
「よくわからないけど、時間の流れが違う空間ってのは確かだと思う」
「異次元とか四次元とかそういう?」
「そうそう。そういうやつ」
 とんでもない話を聞かされているはずなのだが、今ひとつ緊迫感がない。何しろ辺りは明るくて色とりどりの魚が飛び交っている能天気な世界なのだ。鷹史さんが言うには、人間はわかるものしか脳で認知できないので、理解しやすいイメージに勝手に翻訳しているらしい。

「サクヤさんや葵さんもつながってるの?」
「うん」
「桜さんは?」
「うん」
「きーちゃんは?」
「あいつは大丈夫。音痴だから」
「ふうん」

 私はもう一回、ごくりと唾を飲んだ。これは夢じゃない。夢のようなイメージだけど、竜宮は本当にある。住吉の人たちは、本当にこの異次元にかかわりながら生活しているんだ。
「ねえ。じゃあ、葵さんの弟さんやダンナさんがいなくなったのは……ここに来たの? ここに捕まって帰れなくなっちゃったの?」
 鷹史さんはすぐには答えなかった。見張るように、じっと奈落の底を見つめている。
「そう。だからここにいる」
「今も?」
「今も」
「じゃあ、葵さんはここに来ると会えるの?」
「うまくつながればね。でもなかなか難しい」
 つながるって、ラジオのチューニングがうまく行くようなものなのかしら。

「桜さんは、最近つかまりやすくなってた。自分でコントロールできなくて、時々竜宮にすべり込んでしまう」
「へ、それ、どういうこと?」
「元に戻れずに、離れた場所に出てしまったりする」
 
 あの時。満開の桜の下で。桜さんは突然現れた。そう。あの土手には直前まで誰もいなかったのだ。
「それほど遠くないところに出られたのは運が良かった」
 運が悪かったら? 地球の裏側に出ちゃったり、何百年も未来に出ちゃったりするってこと?
「それに瑠那に会えたのは、本当に運が良かった」
「へ? 私?」
「そう」
 
 鷹史さんが、奈落から目をそらして私の方をまっすぐにみるとにこおっと笑った。うわあ、綺麗。目がチカチカするほど眩しい笑顔。しかしなぜかときめいたりはしないんだなあ。だって何か綺麗過ぎるんだもん。天使様みたいで、邪な気持ちなんか湧かないわあ。

「瑠那とかのん太はね、ホントに特異な存在なんだよ。俺たちが異次元にすべり込みそうになる、そのズレとか隙間とかを無効化してくれる。徹底的に音痴と言ってもいいけど、竜宮を信じないわけじゃないし、こうして見ようと思えば一緒に見れるし、とにかく変わってるよね」
 何だかわからないが、バカにされたような気もする。でもま、役に立つならいいや。
「ホントに、ずっと探してたんだよ。のん太ひとりじゃ手が回らないし。良かった、ホントに。瑠那がうちに来てくれて」
 またにこおっと笑う。
「そう言うけど、私、実際何もできないわよ。あの時だって桜さんの手を握っただけだし」
「うん。それでいいんだ。瑠那はわからないものを見ても、桜さんを拒絶しなかった。ずっと助けようとしてくれた。今も。わからないまま、受け入れてくれてる」
 だって。桜さんが苦しいのがわかったんだもん。何が起こってるのかわからないけど、でも気持ちがわかる。葵さんの寂しさや、いつもニコニコしながら抱えているサクヤさんの孤独とか。
 拒絶したりできるはずがない。だってもう、ここの人のことが好きになってしまっているんだもん。

「だから、俺たちは本当に瑠那のことが必要なんだ。瑠那がいなかったら、桜さんはあのまま、あそこに捕まって二度と帰って来なかった」
 鷹史さんは奈落を指さした。
「住吉に来たことで、瑠那を俺たちの事情に巻き込んでしまうし、危険なこともあるかもしれない。それを生贄というなら言えるかもしれないけど、でも身代わりとかじゃない」
「うん」
「安心して。音痴な人間は身代わりになれないから」
 何かまたバカにされたような気がするけど、まあいいや。何が安心なのかもわからないけど、信じることにする。こんな荒唐無稽でチンプンカンな嘘、ついても仕方ないだろうと思うし。
「何か危険なことがあっても、俺たちちゃんと瑠那のこと、守るから」
「俺たち?」
「まあ、主に俺とか麒治郎とかおふくろ」
 桜さんや葵さんは戦力外ってこと? いや、違う。咲さんや鷹史さんは、織居の女達を守ろうとしているのだ。
「あ、そうか。あれは本当のことなのね? 鷹史さんは、ホントに銀の髪の姫の末裔なのね?」
 鷹史さんがにぱあっと笑った。明るい水の中で銀色の髪が光っている。
「そう」
 銀の髪の姫には3人の妹姫がいた。妹姫たちは姉姫を弔って、里を守るためにすべてを投げ打って祈り続けた。住吉の人たちは、何を守っているんだろう。
「じゃあ、竜神さまは? あれも本当のこと? 今も時々暴れるの?」
「そう」
 でも竜神さまって、小さな泉の底に住んでたんじゃなかったっけ? 泉の底ってこんなに広くて深いの? 海の底につながってるの? 

 その時、ドドオオオオン、という響きとともに奈落が光ると、辺りが揺れた。
「何これ。何、地震?」
 私は鷹史さんにしがみついた。
「しばらく落ち着いてたんだけどなあ。また調律に出ないと」
「調律?」
「うん。でも瑠那が来てくれたおかげで、留守がしやすくなったよ。ありがと」
「留守?」
 相変わらずチンプンカンプンだ。

「とにかく、戻ろっか。瑠那、もう平気?」
「へ?」
「もう寂しくない?」
 トンチンカンな質問をされた気もする。でも私は鷹史さんに負けないぐらいにぱあっと笑ってみた。
「うん。もう大丈夫」


 目を覚ますと、母屋の布団の中だった。
 まだ身体がギシギシ痛いけど、少し軽くなったみたい。枕元のカップのフタを開けると中が空っぽになっていた。ふむ。すると、さっきお茶を飲んだとこまでは夢じゃなかったらしい。ポットからとぷとぷカップにお茶を注いでぐいっと飲み干す。ああ、美味しい。
 布団の横には葵さんが寝ていた。メガネをかけたまま、手には本。何かかけないと、風邪引いちゃう。そおっと布団から出て、押入れの方に歩こうとしていると、すっと襖が開いて咲さんが入って来た。
「あら。熱下がった? どれ」
 ふんわりした手を私のおでこに当てる。
「まだちょっとあるかな。でももう大丈夫。起きたならパジャマ着替えようか。それとも何か食べる?」
「き、着替えます。それとお腹すいた」
 声が出にくいけど、何とかしゃべった。咲さんはにこおっと笑った。ううむ。鷹史さんそっくりの笑顔だ。
「食欲出たら大丈夫ね。ちょっと待ってて。着替え取ってくる。葵ちゃん、起こしておいて」

 身体を拭いて、パジャマを着替えて。2人に支えてもらってトイレにも行って。金柑の蜜漬けを入れた温かいお茶と、冷やしたリンゴのコンポートで真夜中のお茶会をした。

 葵さんも咲さんも、何も言わなかった。岩永さんに言われたことも、竜宮のことも、何も。私も聞かなかった。
「リンゴにアイスクリーム載せる?」
「載せます!」
 おやつにパクつく私を見て、葵さんは時々涙ぐんでるみたいだったけど、でも何も言わなかった。だから私も今は聞かない。今はまだ、わからないことばかりだけど、少しずつ。
「あの。葵さん、咲さん。えと、ありがとうございます」
「何が?」
 2人ともきょとんとしている。
「夜なのに、こうして看病してくださって、あの、私」
 2人とも笑った。お母さんみたいに。

 葵さんと咲さんには、竜宮はどんな風に見えているんだろう。鷹史さんの声はどんな風に聞こえているんだろう。

「さ。落ち着いたらまた布団に入って。寝て起きたら、明日はもっと元気になってるわよ。明日はフレンチトースト作ってあげる」
 良かった。もう安心だ。フレンチトーストにアイスクリーム載せてもらおう。絶対に。
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イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
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『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

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かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
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