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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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月夜のピアノ・マン(その8)


 今まであまり手芸なんて興味なかったけど、手仕事っていろいろ有効だなあと思った。特にまだどう距離取っていいかわからない人々の間で会話に詰まりがちな時なんかに。

 岩永絵梨香(もう呼び捨てにする。あちらもこっちを瑠那と呼ぶし)の提案は部分的に採択して修正案が実施された。つまり、咲(えみ)さんに習って浴衣を手縫いして、夏祭りに着ていこうという部分は採択。その浴衣地の費用を絵梨香の両親が負担、という部分はナルちゃんがガンとして譲らず却下となった。この点で、私はナルちゃんを見直した。


私はまだ熱が下がらなかったのでナルちゃんちの呉服店に同行しなかったが、絵梨香と秘書さんと、ナルちゃんの両親やお祖父ちゃんがいる席で両手の拳を膝に握り締めながら主張したそうだ。
「あ、あの。私、そういうの、イヤです。浴衣を一緒に作るのは、あの、いいんだけど、でも、高級浴衣地をうちで買ってもらうとか、そういうのは、イヤ。すごくイヤです」
「高級じゃなきゃいいの?」
「ちがうの。いくらでも、イヤなの。お金払ったから解決、みたいにして欲しくないの。そんなことで、無かったことにして欲しくないの」
 恵梨香に呼び出されて、キッコちゃんと真彩ちゃんも来ていた。2人とも恵梨香に促されて謝ったそうだ。
「それに、ミシン使って家庭科でエプロンしか作ったことないのに、いきなり有松とかもったいなさ過ぎる」
「それは確かにそうやな。バチ当たるわ」 
 ナルちゃんのお祖父ちゃんも同意した。
「手縫いのいろは覚えるのが先やろ。あれ、どこやったかいな」
「はいはい。これでしょ」
 ナルちゃんのお祖母ちゃんが持って来た大きな紙の箱には爆弾が入っていた。開けた途端、店は悲鳴に包まれた。

 月曜日に学校に行って見るとえらいことになっていた。女子が誰も彼も針と糸を持って何か縫っている。
「何これ。どうなってんの」
「瑠那! もう熱いいの? これ、ちょっと見てよ」
 興奮気味の絵梨香に引っ張られて閉口する。強引なところは母親譲りらしい。
「見て。可愛いでしょ、これ。こんなの自分で作れるって知らなかった」
 ナルちゃんを中心に、教室の机に広がっていたのは着物の端切れで作った和風の小物だった。巾着や髪留め、ストラップ。型紙や作り方の紙が取り合いになっている。
「私、これ作りたい。この金魚の巾着」
「このアジサイのバレッタ可愛い!」

 私が面食らっていると、百合恵さんが耳打ちした。
「咲先生のお教室、パンクするんじゃない?」
「えっ。みんな浴衣縫うの?」
「さあ。とにかく、浴衣縫いたいなら、何かひとつ小物を仕上げて合格したら、ってことになったみたいよ」
「ふえええええ」
「で、合格したら1500円で1着分売ってくれるんですって」
「ふえっ。1500円」
「昔、子ども会か何かでお揃いで作るのに仕入れたデッドストックを、ナルちゃんのお祖父さまが供出してくださるんですって」
「百合恵さん、それでいいの? 有松何とかじゃなくっても?」
「あれは冗談よ。見せてもらったらけっこう可愛かったから、いいわ」
 紺地に満月とホタルと水紋の浴衣地。帯はそれぞれで調達することになったそうだ。

 ナルちゃんの両親、うちからは光さんと葵さん、それに咲さん、クラス担任とか教頭先生が岩永さんのお母さんを交えて会合を何回か設け、イジメが起こっていたのが女子グループ中心だったということもあって、”和裁でクラス再生”というちょっと不思議な計画になった。もちろん女子全員が浴衣縫うわけじゃない。それでもみんなお祖母ちゃんに古い浴衣を出してもらったり、古着で巾着リフォームしたり、といろんな形で参加して来て、とりあえずナルちゃんと私はクラス中の女子に話しかけられるようになった。
 桂月庵の控え室に、週2回、和裁クラブが出来た。咲さんは月謝を取らない代わりにひとり200円を集めてお茶やおやつを提供するという約束になった。咲さんやサクヤさんが、お教室の合間に控え室に顔を出してわからないところを教える。意外なことに、男子が3人和裁クラブに参加していた。お囃子や山車の背負い手でお祭りに参加するので、自分の浴衣が欲しいそうだ。
 おやつ係は鷹史さんだったりのん太だったり。きーちゃんもけっこう女子達に人気だった。いつもぶすっとして愛想が無いのだが、背が高くて肩幅広くて男らしいと評価されているらしい。私よりも女子たちの方がきーちゃんについて詳しかった。
「4種目メドレーで関西大会に出場したんでしょ」
「バタフライで中学生の記録更新したって」
「相撲の方は強化選手にスカウトされたって」
 ふえええ、知らなかった。きーちゃん何も言わないし。いつも家にいないな、ぐらいに思ってたら。

 きーちゃんが麦茶のコップを片付けている時、私も手伝って台所に入った。手際良くきーちゃんが洗っていくコップを私が布巾で拭いて棚にしまう。
「お前、もっとしゃべれよ」
 急に言われてびっくりした。
「お前、口に出す以上に頭ン中でいっぱいしゃべってんだろ」
 ふええ。何でわかったの。
「そのドングリ眼見開いてるの見るとわかる。時々表に出さんと便秘になるぞ」
「べっ、便秘って」
「のん太にはポンポンしゃべってるくせに、お前、葵さんとか桜さんの前に出ると猫かぶるのな」
「べっ、別に、猫なんかかぶってないし」
 ほっといてよ、と怒りたくなったけど、次の言葉でショックを受けた。
「葵さん、寂しがってんぞ。お前がいつまでも打ち解けないって」
 ひえっ。どうして。
「瑠那ちゃんが心を開いてくれないのは、私が母親として何か足りないところがあるからだわ、とか言ってたぞ」
 そういうきーちゃんだって、こんなにしゃべってるのは珍しいじゃないの。いつも三白眼でじとおっと家族がわいわいやってるのを、ちょっと遠巻きに見てるだけの癖に。
「ま、イヤなのに無理して話すことないけど」
「い、イヤだとか言ってないじゃないの。でも、だってさ」
 桜さんはまだ話しやすい。葵さんといると、いろいろ考えてしまって何と話していいのかわからなくなってしまうのだ。葵さんも私を扱いかねているのは感じていたし。
 またぐるぐる考えて黙り込んで棚を片付けていると、和裁クラブのひとり、真梨子が菓子鉢と台布巾を持って桂月庵の台所に入って来た。真梨子はちらっときーちゃんを見ると、私に話しかけて来た。
「あの、聞きたいことがあるんだけど」
「うん。何?」
 ちょっとためらってから真梨子が言い出した。
「ここのおうち、スタンウェイあるでしょう?」
「スタンウェイって何?」
「ピアノよ。コンサート用のグランドピアノがあるって。私のピアノの先生がおっしゃってたの。奈良の方の小さなホールが取り壊される時に、引き取り手が無くて建物ごとつぶされるところを、織居先生が譲り受けたって」
「グランドピアノってこんなんでしょ」
 私は両手でゆがんだ三角形を描いた。
「こういうのなら、あるわよ。母屋の和室に。桜さんに見せてもらったもの」
 四角を描きながら説明した。時々サクヤさんが弾いている。
「違うの。最高級品てわけじゃないけど、かなりグレードの高いグランドピアノなんですって。それで、見てみたいなって思って」

 私と真梨子が見つめると、きーちゃんが渋々という感じで白状した。
「あるよ。土蔵の地下に」
 ひえええっ。ホントの話だったんだ。でも何で私、見たことなかったの。来たばかりの頃、お社の隅々まで案内してもらったのに。
「見るか? ちょっと母屋で鍵取ってくるから、社務所の前で待ってろ」

 その土蔵は摂社が並ぶ、境内の奥、神社の敷地の隅にあった。薄暗い内部はホコリっぽいかと思いきや、さっぱりと掃除が行き届いている。頻繁に人が入ってる気配がある。
「こんなとこ、あったなんて知らなかった」
「階段、こっちだ。頭打たないように気をつけろよ。急だから階段気をつけろ」
 にこりともしないけど、きーちゃん、けっこう親切というか気配り男子なのよね。

 先に降りたきーちゃんが地下室の灯りを点けると、私も真梨子も息を飲んでしまった。純和風の土蔵の外見とまったくの異空間が広がっていた。
 磨かれたフローリングの床の真ん中にグランドピアノ。天井には電線やいくつものライト。隅に大きなスピーカー。ピアノの横のスタンドにサキソフォンと、コントラバスって言ったっけ? 巨大なバイオリンみたいなヤツ。そしてドラムセット。まるでお洒落なライブハウスという感じ。
「夏祭りでライブやるから。光さんが瑠那に内緒にして驚かそうって」
「えっ。ごめんなさい、私。余計なこと言って」
 真梨子が慌てて謝った。
「いいよ。除け者にしてるみたいで、教えた方がいいかもって思ってたから。だから見せたんだ」
 おっ。きーちゃんが微笑んだぞ。初めて見た。恐縮している真梨子のために見せたレアな表情。なるほど、これはファンがつくのもわかるかも。
「ライブって何。ロックとか?」
「ジャズ」
 ふえええっ。ジャズ。でもジャズなんて聞いたことない。
「きーちゃんも何かやるの?」
「俺ドラム」
 ふええー。知らなかった。
「夏祭り、楽しみです。きっと聴きに来ます」
 真梨子の言葉に、きーちゃんがまた微笑んだ。家族の前ではいつも仏頂面のくせに。外では意外と明るいヤツなのかもしれない。

 みんなが帰って桂月庵を閉めて、母屋に戻る途中、きーちゃんがぼそっと言った。
「あのピアノ、葵さんの弟が弾いてたらしい。亡くなった後、ずっと土蔵に誰も行かなくて、でも桜さんが頼んで、調律だけは年二回してて」
 岩永さんが言ってた、葵さんの弟。住吉の人からその話題が出たのは初めてだ。
「そしたら、葵さんが結婚した新さんがジャズ・ピアノの人で」
 ふえええっ。葵さんのダンナさんでサクヤさんのお父さん。この人のことを聞くのも初めてだ。
「でも新さんも亡くなって、10年、調律だけしながら誰もあのピアノを弾かなかった」
「それをなぜ」
 封印を解くことにしたんだろう。そんな思い出のあるピアノを。

 先を歩いていたきーちゃんが振り返った。
「瑠那が来たから」
 ふえええっ。何で。私が?
「サクヤも赤ん坊生むし、瑠那も来たし、ピアノの忌明けをしようって光さんが言い出してさ」
 きーちゃんがちょっと照れたように笑っている。私は何だかジーンと感動してしまった。私なんかが来たからって、そんな大事なピアノを。私を驚かせようって、そんな。
「ライブは他に誰が出るの?」
「光さんがサックス、山本さんがベース」
 山本さんは住吉神社の禰宜さんだ。メガネをかけていつもあさぎ色の袴に草履という和服姿。ジャズを演奏しているところなんか想像もできない。

「あれ? じゃあ、ピアノは? 誰が弾くの?」
「サクヤ」
 ひええええええ。それこそ想像がつかない。桜さんの部屋のピアノでは、ショパンとかモーツァルトとか弾いてるくせに。
 神社の姫がジャズピアノ。着物で弾くんじゃあるまいな。

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