忍者ブログ

《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

2017.04│ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30

月夜のピアノ・マン(その9)

土蔵の地下のスタンウェイを見た日から、急にやたら忙しくなった。

 光(みつる)さんはライブのことが私にバレてずいぶん残念がっていたそうだ。
「驚かそうと思ってたのに」
「どっちにしろ秘密にしとくの無理だろ。これから人が出入りするのに」
「うーん。そうだよね。でもびっくりして喜ぶ顔がちょっと見たかったなあ」
 子供みたいにすねてきーちゃんにたしなめられている。可愛いとちょっと思ってしまった。


「人が出入りするって?」
「リハーサル始めるからね」
 床や壁の改装、配線工事、照明器具の設置なんかで、これまでは神社の外にスタジオを借りて練習していたそうだ。
「そこ、手狭でさ。ちょっと遠いからサクヤもあまり来れなくて」
 ピアノを見せてもらった日から、きーちゃんがよく話しかけてくるようになった。慣れてみると、それまでいつも無口で仏頂面で取っ付き難い、と思ってたのが意外と話しやすいヤツだとわかった。向こうもそう思って距離を置いてたのかもしれない。
 
 その日はミキサーさんや照明の人も来てかなり本格的なリハーサルだった。サクヤさんはホントに着物でジャズ・ピアノを弾いていた。自分も着るようになってわかったけど、着物ってけっこう機動力あるのだ。そりゃそうだ。昔の日本人は道路工事も洗濯も着物でやってたんだもんね。着物でジャズっていうより、サクヤさんがジャズって方が違和感すごかった。光さんが説明してくれたけど、ジャズって楽譜があってないようなものらしい。つまりその日の思いつきで曲が出来るそうなのだ。
「こんなヘンなうちだし、身体弱くて友達も少ないし、即興演奏で発散できればってこのコの父親が3歳ぐらいからピアノ教えてねえ」
 それは確かにいい話だが、やっぱり違和感ある。そんなこと言ったら、ハイジのおんじみたいな光さんがサックス吹いてるのも、いつもジト目のきーちゃんがカッコ良くドラムを叩いているのも、歴史ある神社のひと隅で赤だの青だののスポットライトが回ってるのも違和感ありまくりだ。あさぎの袴の神主姿しか見たことがない山本さんが、ジャケットなんか着てベース弾いてるのもすごいギャップがある。とにかく私は興奮して拍手しまくっていた。ジャズなんかあまり知らないと思っていたが、プログラムのほとんどはどこか聞いたことのある曲だった。ディズニーの映画だったり、コマーシャルソングだった曲をアレンジしてあるそうだ。
 こんなに本格的なスタジオを作ってしまって改装費用だってバカにならないだろうに、と余計なお世話の心配をしていたら、今後は有料で貸し出すそうだ。神社なんて閉鎖的なところかと思っていたけど、住吉神社は桂月庵といいこのスタジオといい、積極的に外の人を迎え入れているようだ。

 のん太は裏方担当だけど、時々トライアングル叩いたり鈴鳴らしたりして手伝うらしい。
「なんだ、バレたのか。じゃ、瑠那も出ればいいのに」
 のん太がとんでもないことを言い出した。
「そりゃいいアイデアだ。もともと瑠那の歓迎とご近所さんに紹介するためのライブなんだし」
 光さんが乗ってしまった。ひええええええ。のん太、あんた何ちゅうことを言い出すのよ。というか私の歓迎ライブって何。そんなのもったいな過ぎる。私は頭がぐるぐるしてしまって声が出ない。
「瑠那、何がええかなあ? ピアノはどう? こないだ一緒にちょっと弾いたやろ?」
 ぶんぶんぶん。サクヤさんに聞かれても頭をぶんぶん左右に振るしかない。
「トライアングル、譲ってやろうか?」
 ぶんぶんぶん。
「マリンバどうですか? ほら、木琴ですよ」
 山本さんの提案にも、ぶんぶんぶん。
「じゃあ、歌で決まりだね」
 ひええええええええ。光さん、そんな恐ろしいことそんないい笑顔で言わないでええええ。

 数分の会話で数年分消耗した気がする。この神社にもらわれてラッキーだったと思っていたが、とんでもないところに連れて来られたのかもしれない。

 リハーサルの中休みで、ちょっと我に返って気がついた。
「ね、そういえば鷹史さんはライブに出ないの? 何でも上手くこなしそうなのに」
 こそっときーちゃんにだけ聞いたつもりだったのに、ステージの方にいた光さんもサクヤさんも、のん太も振り向いた。その表情を見て、自分は何か失敗したのだと気づいた。
「タカ兄ぃは出ないよ。夏祭りは神主業の方で忙しいし」
 一瞬の沈黙の後、きーちゃんが答えた。
「光さんがこっちでサボってるからな。婿養子が接待しないと」
 のん太が茶々を入れる。
「いいんだよ。お客さんはみんなタカちゃんを見に来るんだから、私なんかいなくても」
 光さんまでらしくない軽口を挟んでいる。うーむ。これは深刻だ。どうやら私は聞いてはいけないことを聞いてしまったらしい。

「あ、タカちゃん」
 全員がギクッとして振り向いた。階段に飲み物のトレイを持った鷹史さんが立っていた。何というタイミング。
「そなんよ。瑠那にバレたし、ほな、一緒に出んかって話しよったんよ」
 サクヤさんが何事も無かったように鷹史さんとおしゃべりを始める。鷹史さんの話すことは、相変わらず私には聞こえない。
「え、それ、アンコールのやつだっけ?」
「いいかも。あんまり高い音無いし」
 私のわからないところで話が進んでいる。
「何。何の曲がいいって?」
 光さんは鷹史さんの言葉が聞こえないらしい。
「そやね。瑠那の歌が終わってからアレンジ展開すれば」
「じゃ、決まり」
 今度は全員が私の方を振り向いて、鷹史さんのような笑顔でにこおおーっと微笑んだ。何なの。何に決まったの。綺麗な笑顔が凶悪に見えて来た。


 というわけで、夏祭りまであと一ヶ月ちょっと。浴衣を仕上げつつ、英語の歌詞を覚えて歌の練習に励む羽目になってしまった。ライブが心配で、クラスに馴染めなかったことや住吉のあれこれや鷹史さんの事情についてもやもやしていたことが全部ふっ飛んでしまった。

 それでも、エアポケットのようにぽかっと我に返る瞬間がある。そしてふいに気づくのだ。桜さんと初めて会った日、桜の下で桜さんの側にいたあの男の人は誰だったんだろう。この神社の関係者か、桜さんの親戚か家族かと思っていた。そのうち会えたら、あの日にぶしつけな口を聞いたことを謝ろうとずっと思っていた。不思議な人だったな。そして不思議なことに、私はあの人の顔も声もはっきり思い出せないのだ。敢えて言えば、雰囲気が鷹史さんに似てる。あの、サンゴ礁の海みたいな宇宙みたいな夢の中でおしゃべりした鷹史さんに。
 そしてもうひとつ、私は気づいた。住吉に来て2ヶ月が過ぎようとしているのに、私は葵さんとろくに話したことがない。桜さんと会った日、駆けつけて来た葵さん。あれから施設に送ってくれたのも、いろんな手続きをしに通って来たのも、迎えに来てくれたのも葵さんなのに。
 家事や桂月庵のお手伝いで、一緒に過ごす時間が長い咲さんやサクヤさんとはよく話す。桜さんもしょっちゅう私を呼んではいろいろ話しかけたり、用事を頼んで来たりする。のん太はとにかくいつもちょっかい出して来る。光さんや鷹史さんは、たいていこのメンバーといると混ざって来る。
 そうだ。きーちゃんと葵さんはこの輪に入って来ない。きーちゃんはちょっと人見知りっぽいし、部活とか相撲で忙しいせいもある。塾にも行っているらしい。葵さんは大学の研究者なので、帰りが遅いことがしょっちゅうだ。研究や学会で留守も多い。それでもけっこうな頻度で一緒に食卓を囲んでいるのに。
 和やか過ぎるほどに和やかな。ホームドラマのような絵に描いたような団欒の輪の中に、葵さんときーちゃんは入ってこない。輪のちょっと外にいて、きーちゃんはジト目で見ているし、葵さんはちょっと悲しそうな表情をしている。弟さんやダンナさんを失くした悲しみが癒えないのかな、とも思ったけれど、でも何だか不安そうというか、怯えているように見える。この2人の眼差しのせいで、大家族の団欒が隠しているものに気づいてしまう。

 そう。例えば鷹史さんとサクヤさんだ。
 お内裏様とお雛様みたいな、綺麗で仲睦まじいカップル。鷹史さんを見つけるとサクヤさんはこの上なく幸せそうに微笑む。こちらまで幸せになるような。しかし、こんな純度100%の幸せなんかあるものだろうか。いくら生まれた時から相思相愛のいとこ同士で、もうすぐ子供も生まれて人生で一番ハッピーな時とはいえ。
「ウソ臭いだろ?」
 耳元で急に言われてギクッとした。慌てて振り返るときーちゃんがいつものジト目で、寄り添う兄夫婦の方にあごをくいっと動かした。
「う、ウソ臭いって、だって、今さ、一番幸せな時でしょ。いいじゃないの。微笑ましいじゃないの」
 でも私も思っていた。妬みや僻みと言われそうで表に出せなかったけれど。
「妊婦ってもっとイライラしたりオロオロしたりするもんじゃねーの。だいたいサクヤは元々すっげーイジケ虫で根暗なのに、何あの、能天気な浮かれぶり」
 ちょ、ちょっとあんたそれ、僻みってもんじゃないの。そしてここで初めて気づいた。新婚夫婦を囲む家族団欒にきーちゃんが加わらないわけ。繊細なお年頃の中学生男子の心理ってやつかと思ってたけど。そうか。そうだったのか。私もつくづく鈍いなあ。
「あいつ、ずっと悩んでた。俺が”タカ兄ィと結婚すんのか?”って聞いたら、”タカちゃんのことは好きだけど、子供産むの怖い。住吉の運命に巻き込むのが怖い”って、泣いてた。それがケロッと妊娠して出来ちゃった婚で、それはいいけど、あの能天気。まるで別人だ」
 別人。それってどういうこと。結婚生活が幸せで悩みを忘れたとかそういうことじゃなくて?
「絶対あいつが何かしてる」
「な、何かって鷹史さんがサクヤさんに? そんなことできるの?」

 催眠術とか人格操作とか? どうしよう。急に何もかも胡散臭く見えて来た。絵梨香のママさんの話してたことを急に生々しく思い出してしまった。
 怖いと泣いてた姫を操って後継ぎを産ませて? 生贄を囲んで儀式をする黒魔術の集団に思えて来た。
「あいつはそんなのお手の物だ」
 きーちゃんの眼差しは怒りを通り越して憎さ100倍って感じだ。そんなきーちゃんに気づいて、鷹史さんがこちらに手をひらひらと振った。そしてあの天使のようなキラキラした微笑み。

 どうしよう。天使じゃなくて悪魔だったの? 桜さんは天女じゃなくて子供を拐う雪の女王だったの? 咲さんも? のん太は? のん太もサクヤさんが小さい頃から知ってるって言ってた。サクヤさんの変化に気づいてないの?

 どうしよう。葵さんと話さなきゃ。


PR
*COMMENT-コメント-
*COMMENT FORM-コメント投稿-
  • この記事へのコメント投稿フォームです。
Name:
Title:
Mail:
Url:
Color:
Decoration: Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Message:
Pass: ※編集時に必要です。
Secret:  ※チェックすると管理者へのみの表示となります。 
目次(ヴァル)
「姫おり」過去編
織姫のお仕事
     4.0
   4.1 4.2

カルミノ編 1日目 『桜降る夜の森に』 2日目  『雷鳴の封印』  『拾い子』  『森の中の星空』 3日目  『再生の呪文』  『春日なる』 4日目 祝宴 お茶会  『おすそわけ』  
イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
 出口1
『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

カルミノ編 前夜祭 『Happily Ever After』01 1日目 『Happily Ever After』02 『Happily Ever After』03 『Happily Ever After』04 『Happily Ever After』05 2日目 『Happily Ever After』06 『Happily Ever After』07 3日目 4日目 祝宴 お茶会  『romanesque』
イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
シュアラ編 『Front breaking』 『Dell'oscurità per brillare』 『End symptom』 【露癒の祀】 拾壱>拾弐
エイロネイア編  『daily workⅠ』 『覚醒ヒロイズム』 EPISODE1 EPISODE2
最新コメント
[09/12 梧香月]
[05/16 Backlinks]
[12/16 ヴァル]
[12/15 梧香月]
[11/25 ヴァル]
[11/21 小春]
[09/28 ヴァル]
カレンダー
03 2017/04 05
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30
ギャラリー



漫画



季節のアルバム




漫画
カウンター