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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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東の魔女見習い(その6)


 金の瞳の姫には3人の妹姫がいた。
 姉姫が奈落に身を投じて一生懸命なだめているにも関わらず、竜宮さまは姫を悲しませた人の世なんか壊して緑豊かな森と野に還そうと考えていた。どうやら妹姫たちのことは姉姫ほど可哀想と思ってくれなかったようだ。そもそも、都だの寺だの醜悪なできものを作るために竜宮さまの物である地底の宝を掘り返して、静かに眠らせておくべき毒を撒き散らし、竜宮さまの眷属が住まう森をはげ山にした人間に対して、竜宮さまはずっと怒っていた。海の底でうとうと眠っていた竜宮さまを起こしたのは、そもそも人間の営みなのである。
 寝ぼけて不機嫌な竜宮さまは寝返りのついでに都をつぶすつもりだった。

「そもそも、その竜宮さまって何なの。竜みたいなもの?」
 私は鏡ちゃんに聞いたことがある。
「環太平洋造山プレート」
「何それ」
 鏡ちゃんは頭をひねりながら説明してくれた。
「いや、オレもこの身体に入ってからいろいろ勉強してみたんだが、目に見える形だとそういうことになる。いちばん近いところだと、フォッサマグナとかええと、活断層? でもひとつじゃなくて、深いところで全部つながってるんだ」
「どうしてそんなものが阿鳥を気に入ったりするの」
「だから、目に見える形ならっていったろ。別の相で見ると重力構造の異常だとか、地熱の分布とか水銀や鉛の鉱脈とかになる」
「ますますわからないわ」
「つまりもともと人間の世の中と関わりのない時間枠で動くモノなんだよ。でもあの時は200年かそこらに急にガチャガチャやったからな」

 都の周辺の乱れでイライラして寝不足だった竜宮が阿鳥を見つけた。彼女の声と耳が特殊だったからだ。
「波長って言うのかな。鷹史もそうだった。重力の歪みを音で感じて、それを調律する声を出すことができた。機嫌が悪いとぶっ壊す音も出せたがな。自分の声だと微調整が難しいので、鷹史は楽器とか金物みたいなものを使っていたけどな。こう、枝をたわめて糸を張ったようなものでも、工夫してどうにかしてたみたいだぞ」

 3人の妹姫の子孫は、この1000年、日々結界の修繕をして来たが、そのやり方はそれぞれ違う。水脈の濁りや地脈の歪みを音で感じるもの、温度でとらえるもの、匂い、色、それぞれで探知して、それぞれ自分に合った方法で調律する。

 私は歌を歌えないし楽器もできないから、弓を使う。矢が空を切る、その音が効くのか、的を狙うその集中力が効いているのか、よくわからない。トンちゃんと咲さんも弓を引く。トンちゃんは笛を使うこともある。まあ、その時に手元にあるモノで何とかしているわけだ。


 池の傍で鏡ちゃんが朱色の笛を吹く。その音が弓道場で演武の用意をしている私たちの耳にも届く。ドンちゃんが幼体のホタルを呼び寄せて、自分を囲むように輪を描かせ始めた。見えないけど見える。お社では咲さんが鈴をしゃらららんと振る。聞こえないけど聞こえる。
 私たちの作るそれぞれの輪がつながって響き合うのを感じる。青い空間が私たちを包んで輝き始める。ホタルのリーリーという声、咲さんの鈴の音、鏡ちゃんの笛が空間を満たす。

 この青い光のどこかにタカちゃんがいる。私が魔女業をつづける限り、タカちゃんをつながっていられる。

 私とトンちゃんは膝を床につけたまま、つま先を起こして的に礼をする。深く息を吸い、印を結んだ右手をすうっと前に伸ばして、声をそろえて呪を唱えた。

 光が強くなる。リーリーという音が一段を大きくなって耳の鼓膜がしびれるようだ。

 重心を前に移して片膝を起こす。後ろに控えた桐花がトンちゃんに、魅月が私に鏑矢を1本ずつ手渡した。その弓から2人が額に挿したオガタマノキの枝の波長が伝わってくる。

 足踏みして的に向かう。取懸け、手の内を整え、弓構えの動作に合わせて、きーちゃんが池の傍をドスンと踏んでいるのが伝わる。その地響きにいたたまれなくなった濁りが地面や水面から湧き上がり、笛とホタルの声に絡め取られて空中で震え始めた。きーちゃんがまたドスンと踏み締める。

 打ち起こし、引き分ける。

 鈴の音、笛の響き、ホタルのさざめく声がひとつになって、今ではビリビリと空間を揺らしている。青い光が一層強くなって、青白く輝き始めた。

 会。

 さらに光度を増して、白くまばゆい空間が、ふいにシンと鎮まり返った。
 足元がすうっと透けて、海の底が見える。でもあの時のように暗くない。怖くない。

 タカちゃんが、私とトンちゃんを、きーちゃんを、桐花や魅月、お社のお姫様、そして日々走り回っている私たち全部、この汚く騒がしい人の世を、守ってくれている。

 矢を放った瞬間、空間が揺れた。矢はブウウンともビイイインともつかない音を放って、笛に絡め取られた濁りを切り裂いた。

 第二射。今度はピイイイイイイと聴こえた。弓が空を切る音が、鏡ちゃんの笛と重なった。シンとした光の中を、ピイイイイインと弓が走って行く。それは的を通り越し、池の上を越え、北の山々の連なりを越えて海を目指した。
 春の真昼の海のような、穏やかな金色の水面がふたつに分かれた。

 嗚呼。静かだ。波の音が聴こえる。どこかから白梅の涼しい香りが漂ってくる。この風景はどこだろう。金の瞳の姫が行きたかったところだろうか。冷たい澄んだ空気。美しくて懐かしい空間。いつまでもここにいたい。でもいつまでもここにいたら、寂しいかもしれないな、とも思う。

 白い風景の一番奥で、お社の姫が箒で落ち葉を掃きながら微笑んでいる気がした。

 残心の姿勢のまま、私は目を閉じ、静かに息を吸う。少しずつ、白い光が穏やかになり、紫を帯びた夕闇の青さと、ほの暗いカシの木立の深い緑が還って来た。やかましいヒヨドリの声とせわしないメジロのおしゃべりが耳に届いた。

 嗚呼。私はまたここに帰って来てしまった。小さくため息をついて、姿勢を戻す。

 桐花と魅月がとことこ幕まで歩いて矢を拾い上げ、とことこと戻って来た。本当は弓を拾う係り、受け取る係りとそれぞれ必要なのだが、家内制小規模産業なので大目に見てもらおう。私とトンちゃんは後ずさって三歩戻り、蹲踞の姿勢を取った。すっと立って、向き直ると牧野先生はニコニコ笑っていて、その他の一同はポカンとしていた。
 自分ではわからないが、本気で弓を引くと、特に祓いの念を込めて弓を放つと、私の外見が変わって見えるらしい。冠は飛んでいるし、きつく結ったはずのくせっ毛がほどけて長く肩までさらりと垂れている。多分今、私の目は緑に、髪は金色になっているはずだ。きーちゃんの評によると、二重あごも修正されて”三割増しぐらいの美人”に見えているそうだ。

「いやいや。珍しいものを見せていただきました。どこの流派の儀礼ですか?」
 何事もなかったように牧野先生が話かけて来たので、見ていたOBや生徒たちも首をかしげながら集まって来る。どのくらいの人達が、今の光や音が感じとっていたのだろう。私の変化に気づいたのは何人ぐらいだろう。
「お伊勢さんで蟇目の犠は見たことがあるんですが、今拝見したのを大分違ってました」
 私も当たり前のような顔をして雑談をすることにした。
「山陰の流派なんですが、古書を元に再現した儀礼ということで、私と兄がせっせと通って見せていただいたんです。人前で披露する許可をいただくのに三年かかりました」
「あ、そうか。都さんは高山の妹さんだっけ」
 牧野先生は生徒たちの方に向き直った。
「この方のお兄さんはお前たちの先輩だぞ。この高校の卒業生で、歴史マニアが嵩じて今は人文学の研究者だ。お前たちの好きな言葉でいうとミステリー・ハンターとか言うんだろ。どうせまたどこかヘンなところに行ってるんでしょう、高山は?」
「三日前がルーマニアのどちら側かの国境にいるというメールが来ました。多分、今頃どこかの修道院の書庫でも漁っているでしょう」
「私はあいつが二年生の時の担任でね。あのクラスは面白かった。織居のお父さんもいたし」
 私はびっくりした。目の前の先生とタカちゃんにそんなつながりがあったなんて。道理で私の外見が変わったぐらいで動じないはずだ。
「織居くんのお父さん? ここのOBだったんですか?」
 さっき着替えを手伝ってくれた女生徒が聞いて来た。
「それが二年の一学期でアメリカにさらわれてね。結局うちは中退だ。代わりにアメリカで物理の博士号取って帰って来た」
「え。それってスゴイことなんじゃないですか?」
「そうだねえ。私は通訳で一緒に行ったけど、本人は全然その気がないのにあちらがやたら熱心で面白かったよ」
 そうか。牧野先生はタカちゃんの言葉もわかったんだ。私はちらっとトンちゃんの方を見た。この年頃の男の子は父親の話をされるのをイヤがったりしないものだろうか。特にこんな飛び抜けた父親で、さらにその父親が亡くなってる場合。
 でもトンちゃんは慣れてるのか、しれっとした顔だった。積極的に会話に参加するでも無く、桐花たちと弓や幕を片付けていた。
「まあ、また高山から連絡あったら、私がよろしく言ってたと伝えてください。たまには母校に顔出せって」
「はい。伝えます」

 弓道場を辞してきーちゃん達と合流した。
「おー、お疲れさん。やっぱり弓引くと手っ取り早くていいな。都がいると楽でいいわ。お前、ずっとこっちにいればいいのに」
「キジロー、無茶いうなよ。都はあっちに仕事あるし、第一そうしたら誰が東を守るんだよ」
 トンちゃんは義理の父親を名前で呼ぶ。赤ん坊の頃から遊んでくれていた14歳上の叔父を、今更お父さんを呼べないのだろう。ましてや最大のライバルを。
 つまり、トンちゃんは強烈なマザコンなのだ。

「お袋から電話入った。サクヤの熱が下がったらしい。ついでに豆腐買って来いって言われた」
「都、お腹すいたろ。早く帰ろう」
 鏡ちゃんが肩をぽんと叩く。
「トンちゃん、今日のデザート何?」
「ブラマンジェ」
「やったあ。都ちゃん、早く帰ろう」
「おっちゃん、豆腐屋で豆乳シフォンケーキも買ってよ」
 お役目を終えた白黒コンビの心はもう晩御飯に飛んでいるらしい。

 確かにお腹がすいた。いつも、あの白い空間に行って帰って来た後は猛烈にお腹がすくのだ。そして寝不足の頭の重さや肩凝りも綺麗に取れていた。ついでにおでこの吹き出物も。顔をなでるとお肌がすべすべもちもちになっている。髪もサラサラだ。三割増し、か。鏡で見ても、写真に撮ってもこの外見の変化は見えない。それでも一定数の人には見えるらしい。これが全国大会も昇段試験も断念した理由だ。本気出すとこうなってしまう。

「都ちゃーん。行くよー」
 桐花が手を振っている。さあ、お社へ向かおう。お姫様に謁見だ。

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織姫のお仕事
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かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
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