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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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東の魔女見習い(その7)


 お社の裏手から母屋の横にミニバンをつけて、きーちゃんが私の荷物を下し始めるとすぐ咲さんが出て来た。
「都ちゃん。はるばるありがとなあ。早速寄り道して、疲れたやろ?」
 多分まだ金色になってる私の髪をなでる。咲さんは私の母の2歳上の姉にあたる。ふっくらした包容力のある西の魔女。こうしていると普通のお母さんというかオバサンで、全国に轟くスゴい巫女という感じがしない。神社の横手で和裁とお花とお茶の先生をしている。”仕事でさんざん着るから”と普段は着物を着たがらない。今日は草木染めの薄手のカーディガンだ。

「都ちゃんの気はホント綺麗。東でずっとがんばってるんやもんね」
 髪をなでながら私の顔をじいっと見つめるので照れてしまった。
「お袋、都ハラ空かせてるんやから、すぐ飯にしよう」
 きーちゃんが声をかける。
「あ、そうやね。入り入り。部屋はいつものところにお布団出しといたよ。離れの西向き」
「お世話になります」
「都の荷物、運んどくから母屋に上がっとけ」
「ありがと、きーちゃん」

 白黒コンビと母屋の台所に行くと、柱の姫が頭に布巾巻いてたすき掛けて蒸し器の前に立っていた。
「都ちゃん。よう来たなあ。お腹すいたやろ。すぐご飯やし。お芋の饅頭も蒸かしとるんよ」
 腰まで届くまっすぐの髪をひとつに束ね、淡い桜色の着物の上に割烹着。私は姫が洋服を着ているところをほとんど見たことがない。先代の柱の姫、桜さんがどっさり残していった着物を身に着けているらしい。
「私、10歳ぐらいから急に背ぇ伸びちゃって可愛いお洋服が似合わなくて」と言ってるのを聞いたことがある。どうやらこの姫は自分が美人だと思ってないらしい。そこがまた悔しい。

「サクヤ! 何やっとんや。寝てろて言うたやろ!」
 後ろから台所に入って来たトンちゃんが大きな声で叱ったので、姫がびくっと身をすくませた。
「だって、もう熱も下がったし、せっかく都ちゃん来たんやし」
「だってやない。先週倒れたばっかりやないか!」
 トンちゃんは学校では標準語のくせに、家では方言が出るらしい。ケンケン怒っているトンちゃんの頭に、きーちゃんがぱふ、と大きな手を置いた。
「そう、ポンポン怒鳴るな。サクヤも寝てるの飽きたんだろ」

 ギロ、と音がしそうなぐらいの形相できーちゃんをにらみ返した後、トンちゃんはぷい、と台所を出て行った。
「お道具、片付けてくる」
「あ、私も手伝う」
 私は慌ててトンちゃんを追いかけた。

 境内の北側の脇に、弓道場と相撲の土俵がある。近所の子供たちがお稽古に来るし、お祭りでは奉納試合もある。竹弓に鏑矢を運び、まぐすねで麻弦に薬煉(くすね)を塗り込む。松脂の香りが漂う空間で無言で作業をした。装束は一枚ずつ丁寧に衛門にかけて風を通す。冠は木の棚に。
 トンちゃんがまだピリピリしているのがわかる。この子の母親に対する過保護ぶりはもちろん愛情から来ているんだろうけど、いささか神経症めいた切迫感がある。
「サクヤさん、先週倒れたの?」
 手を止めて返事をするまでに三呼吸ぐらいあった。
「うん」
「胸?」
「うん」
 水脈の濁りや地脈の歪みは、結界の要である柱の姫の身体にそのまま響く。多少のズレは日常茶飯事とは言え、今回の南紀の歪みはかなりのダメージに違いない。
 タカちゃんが消えた時、トンちゃんは3つにもなっていなかった。あの時のことを、この子はどのぐらい覚えているのだろう。あの奈落を、この子は見たんだろうか。どんなに手を伸ばしても届かない、どんなに叫んでも声が吸い込まれてしまう、あの絶望的な奈落。人の思いなど意味もない彼岸の世界。
 また母親をあの空間に奪われるかもしれない。トンちゃんはそんな恐怖感をずっと抱えて育って来たのだろう。いっぽう、サクヤさんの方もトンちゃんを奪われたくない。そしてひとりでもしっかり育てなくちゃ、と互いに気を張ってほがらかに過ごして来た。トンちゃんが泣いても雨は降らないはずなのだが、私はこの子が泣いているところを見たことがない。サクヤさんの泣いているところも見たことがない。トンちゃんはいつもハキハキいい子だし、サクヤさんはいつもふんわり微笑んでいる。

 普通の反抗期の男の子のように、こうして母親を怒鳴ったり、義父親にスネて見せたりできるようになって、良かったな、と思う。きーちゃんがサクヤさんと再婚した時、トンちゃんはかなり荒れたらしい。子供らしく八つ当たりしている姿を見て、周囲の大人はかなり安心したそうだ。母親ひとりに集中していた愛情が、妹2人にも分散したのも健康的だと言える。
「湯豆腐ならサクヤさんも一緒に食べられるでしょ。ご飯行こう」
「うん」
 こうして私の前でスネたところを見せて甘えてくれるのも、特権扱いのようでうれしい。タカちゃんに似た銀の髪、金の瞳の、タカちゃんに似てない総領息子。家族以外にはひとことも話さず、話がわかっているんだかわかっていないんだかいつもニコニコ笑っていて、何というか不憫で商店街でも学校でもタカちゃんは大人達にモーレツに可愛がられていた。その人気は今も絶大で、タカちゃんのカリスマが今もトンちゃんを守っている。きーちゃんがサクヤさんとの再婚を決めた理由の3割ぐらいは、トンちゃんへの愛情のような気がする。そして私の兄は人文学への道に進んだのも。親友の忘れ形見を守るために、自分に出来る最良の方法を選んだのだと思う。兄は世界中うろうろして、さらわれた黒曜を探しているのだ。

「トンちゃーん、湯豆腐もう食べられるよー」
 白黒コンビが弓道場に呼びに来た。
「トンすけ、いい年こいていい加減直しなさいよ、そのマザコン。みっともないわよ」
 魅月がズケズケつっこむのでハラハラしてしまう。
「ほっとけ。そういうこと言うヤツにはデザート食わせん」
「何それオーボー」
「トンちゃん、マザコンはモテないよ」
 ぎゃあぎゃあ騒ぎながら境内を横切って母屋に戻る3人を見ながらちょっとほっとした。大丈夫。いろいろあるけど、この家族は大丈夫。

 ふわっと甘い香りが漂って来て足を止めた。
 母屋の東南側、サクヤ姫の部屋に面した庭の一角が白い花で溢れていた。もう目の前に差し出した自分の手の輪郭さえ定かに見えない青い夕闇の中、白い花々の群れは胸を衝くほど美しかった。梨の花、雪柳、コデマリ、スノーボール。ユスラウメにヒメウツギ、エゴノキ。草花もみんな白。原種の白いチューリップ。白いハナショウブ。白いライラック。さまざまな彩度、さまざまな形と香りの白い花々で埋もれるこの庭は、遠くに出かけられないサクヤのために、彼女の父親が作ったものだそうだ。季節季節に、誕生日やクリスマスの度に、ここの花を増やして来た。父親が亡くなった後は、その仕事をタカちゃんが引き継いだ。庭の中心の大きなサルスベリは、毎年夏になると降るように真っ白な花をつける。プロポーズした時に、タカちゃんがサクヤに贈った木なのだそうだ。

 どんな指輪も、どんな言葉も、敵わない。

 庭の前で佇んでいる間に涙があふれて来た。敵わない。誰もこんな風に私を愛してくれない。
 泡になって消えてしまえればいいのに。こんな美しい庭の影で、妬んで僻んでみっともなく泣いているしかないなんて。

「おーい。しんじょ、無くなるで」
 わざとカコカコ、草履の音を立てながらきーちゃんが近づいて来た。でかい身体に三白眼気味のひとえの眼、ボサボサの髪でいかにもガサツそうに見えながら、きーちゃんは気遣いが細やかだ。どうせ私がベソかいてるのもお見通しに違いない。

「きーちゃんは何か、花、あげたの?」
 私は鼻をすすって聞いてみた。
「へ? 何の話や?」 
「サクヤさんにプロポーズした時」
「ああ。サルスベリ。ピンクのやつ」
「へえ」
「ほら、ここいらへん」
 サクヤの部屋から縁側続きの南の池の傍に、確かにサルスベリがあった。まだ樹高が小さい。その根元にひと群れのピンクのオドリコソウが咲いていた。それに大小のツツジがピンクの花をつけている。
「きーちゃん、花の趣味、フェミニン」
「ほっとけ。白い花はもうネタ切れや」
「サクヤさん、指輪とか着物とか喜ばないし?」
「白い花ばっかしやと寂しいやろ」
「うん、そうね。いいと思うわよ、ピンクの庭」
「瑠奈と佐伯も来た。あの母子がそろうとホントにデザート残らんぞ」
「あっ。ブラマンジェとシフォンケーキ」
「そうそう」

 きーちゃんがにやっと笑って私の頭にぽふっと大きな手を載せた。
「ほれ、飯食うぞ」 

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目次(ヴァル)
「姫おり」過去編
織姫のお仕事
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イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
 出口1
『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

カルミノ編 前夜祭 『Happily Ever After』01 1日目 『Happily Ever After』02 『Happily Ever After』03 『Happily Ever After』04 『Happily Ever After』05 2日目 『Happily Ever After』06 『Happily Ever After』07 3日目 4日目 祝宴 お茶会  『romanesque』
イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
シュアラ編 『Front breaking』 『Dell'oscurità per brillare』 『End symptom』 【露癒の祀】 拾壱>拾弐
エイロネイア編  『daily workⅠ』 『覚醒ヒロイズム』 EPISODE1 EPISODE2
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