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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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白い花の歌(その2)


 涙で前が見えない。息が苦しい。青い夜の底で白い花を踏みながら、私は鷹ちゃんを探して走り続けた。見渡す限り山らしい稜線はなく森もない。なだらかな丘を走りながら少しずつ斜面を下りていたらしい。ふいに視界が展けた。

 白い花畑は台地だったらしい。ところどころに白い岩が突き出ていたのが、だんだん岩がちになり、いきなり切り立った崖に出た。崖の下は青い荒野。暑くもなく寒くもない青い夜の底に、風も吹かず鳥も鳴かない、草一本生えていないむき出しの土地が広がっていた。私が立っている台地とそっくりな、花畑を頂いた岩山に囲まれている。荒野の真ん中に石の塔があった。どう見ても人為的な構築物だ。外壁に階段や見張り台らしい小塔、それに無数の窓。そして入口を思われる穴から灯りが洩れている。


これも私の中にあった風景なのだろうか。子供の頃、白い花畑には来たことがある。でもこの青い盆地が初めて見た。もちろん塔も。

 見下ろしているうちに息が整って来て、涙も止まった。大きく深呼吸して、自分の位置を確かめる。崖は険しいがそれなりに足場がありそうだ。山歩きには慣れている。うん。お堂に入った時の装備のまま、ここに降りて来れた。トレッキングシューズにグローブ。ザックにロープもある。一応アイゼンやピッケル代わりになるナイフも入っている。簡単なビバークできる装備も。水に入る時にシューズもザックも置いて来てしまった気もするが、そんなこと忘れた。

 盆地に降りたら、どの岩山から来たかわからなくなりそうだ。そっくりの7つの台地に囲まれた石の塔。もちろん降りないわけにいかない。だって窓から音楽が聞こえて来る。昔、鷹ちゃんが私を迎えに来てくれた時に口ずさんでいた音楽。ハミングとも口笛ともつかない音。

 思いの外、下りは楽だった。帰り道のことなんか考えない。振り返らない。お堂から水に入った時、思わず振り返ってしまってここに来たのだ。また振り返ったらこの塔を見失うかもしれない。鷹ちゃんにつながるトレイルはここしかない。そして多分、澪さんを連れ帰る道も。

 私は声をかけることも中をうかがうこともせず、塔に踏み込んだ。夜の底から灯りの中に入ると一瞬目がくらんだが、すぐに内部が見渡せるようになった。塔の中も暗かったからだ。どこから灯りが来ているのかわからない。ロウソクのようなオレンジがかった灯りだが光源がわからない。入口に続く土間には階段しかない。塔の上へ続く階段と下る階段。見上げると天井は無く、塔の天辺はそのまま星のない夜空だった。灯りは下る階段から洩れている。そして音楽も。私はためらわず石段を下り始めた。

 階段を螺旋状に下りていく。土間の床が地下空間の天井になっているらしく、幅2メートルほどの石段の右手が塔の外壁。左手に内壁があって10段ごとぐらいに窓穴が空いている。中世ヨーロッパの城塞という趣きだ。三階分ほども下っただろうか。石段が踊り場に行き当った。木の重厚なドアとさらに下る階段。何だか魔法使いが住んでいそうな塔だと思っていたせいだろうか。それはいかにも魔法使いの書斎に通ずるドアのデザインだった。暗い色に塗られた木材と黒い金具。そしていかにも魔法使いか魔女でもいそうな軋んだ音を立ててドアが開いた。最初の地下室は予想外に居心地が良さそうだった。石を組んだ暖炉と木の本棚とたくさんの本。床には色褪せた絨毯とクッションの山。クッションに埋もれて一日中本を読んでいられそう。でも今はそんな暇はない。この図書室には人の気配が無いし、音楽はさらに地下から聞こえて来る。
 さらに三階分ほど下ると次のドア。そこも空っぽだった。広間のような礼拝堂のようなガランと天井の高い厳かな空間。次のドアの中はいくつかの質素で小さな部屋に分かれていて、さながら修道院の個室という風情。次のドアは書類の散乱した書庫か研究室という感じ。次はまた会議室か広間のような空間。これほど地下深いところから洩れてくるかすかな音楽が、岩山の上から聞こえたなんて不思議だ。でもそんなことにかまっていられない。立ち止まったり振り返ったりして音楽をたどり損なう方が怖い。
 石段を下りながらわかって来た。この無人の塔が竜宮城だ。この底に竜宮様がいらっしゃる。聞きたいことがたくさんある。鷹ちゃんのこと、新さんのこと。もちろん澪さんのこと。昔の金の瞳銀の髪の姫のこと。それから鏡ちゃんときささんのこと。捕まったままの黒曜のこと。そして柱の姫君、咲也さんのこと。結界はいつか解けるのだろうか。サクヤさんはいつか解放されて海を見ることができるのだろうか。その時、私やドンちゃんはどうなるのだろう。結界が解けたら、鷹ちゃんは帰って来る?
 どれほどの深さを下りただろうか。不思議に疲れは感じない。寒くもないし怖くもない。塔の底。石段の最後の段に続く小さな踊り場と最後のドア。音楽はここから聞こえて来る。私はためらわずドアを開けた。塔の底は暗い空間に小さな無数の光が飛び交っていた。蛍のようだが直線の軌跡を残し、宙に幾何学の図形を描いている。図形が変わる度にチリンともピロロともつかない細い小さな音を立てる。図形と音が幾重にも重なって空間を満たしていた。光の真ん中に人がひとり座っている。テーブルの上をなでるように両手を動かし、その手のひらが翻るごと、指先が空を切るごとに、光の図形が切り替わりチリンチリンと音を立てた。図形はアールデコのステンドグラスのように直線を描いたと思うと、ふいに色を変えて変曲点を持つ曲線になる。塔の底の壁には窓なのか鏡なのか、弧を描く直角のモニターのように空間の光の図形を写していた。光の中心にいる人は静かに手を翻す。また新しい図形が現れる。その様子が占いの結果が気に入らなくてタロットカードを切り続けているように見える。
 この人が竜宮さまだろうか。鷹ちゃんじゃないのは、部屋に入った瞬間にわかった。失望はない。この人が鷹ちゃんのことを知っているという確信があった。長い黒い髪。細身で長身。伏せ目勝ちな黒い目。ふいに誰かわかった。思わず呼びかけた私に、彼女は振り返った。

「サクヤさん」



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かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
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