忍者ブログ

《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

2018.08│ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31

白い花の歌(その3)

その人はテーブルから目を上げて私の方を振り返ると、ゆっくり立ち上がった。長身の周りをチリチリと光の図形が踊る。どこか眠りから覚めたように、あるいは久しぶりに人と話したという風にあやふやでぼんやりした表情をしていた。

「あなた、私を知っているの?」
「いえ、でも」
 その人は私の知っているサクヤさんでは無かった。ずっと長身。多分、兄と同じぐらいありそうだ。上背だけじゃなく肩幅もあるし、筋肉質というか何というか運動できそうな感じ。顔も似ているようで似ていない。住吉のサクヤさんも表情はたおやかながら造作は中性的だが、さらにもっと男性寄り。眉の線とか顎とか。初対面で男性だと間違える人がいるかもしれない。でも私はこの人を知っている。確かに会ったことがある。
「私を知ってる?」
 その人は首を心持ちかしげてもう一度たずねた。詰問しているというより、自分が誰か自信がなくて私に教えて欲しいという印象を受けた。
「たぶん、知ってます。会ったこと、あります。ずっと、あのずいぶんと昔に。それから」
 そうだ。私はこの人の姿を知っている。咲さんや桐花が巫女舞で”下ろした”時の姿とそっくりだ。長身で細身、腰に届く長いまっすぐな黒髪。伏し目がちの黒い目。サクヤさんとそっくりな姿に変幻すると思っていたけど、違うのだ。サクヤさんの方がそっくりなのだ。住吉を守る水神、黒曜に。
 5歳で『柱』になる以前、サクヤさんは葵さんや今の桜さんのようなふわふわウェーブの髪だったそうだ。桜さんが『柱』だった頃は逆に、まっすぐな長い黒髪を垂らした姿が写真に残っている。そしてこの人は、黒曜にそっくり。これはいったいどういうことだろう。竜宮さまは黒曜なのか?
「そう。ずいぶんと昔に。そうなの」
 その人はぼんやりした表情のまま、左手を扇で舞うようにひらりと返した。リーンと音を立てて光が新しい曲線を描く。
「そう。そうね。ずいぶんと昔。それであなたは何を探しにこんなところまで?」
 この人が黒曜なら聞きたいことはたくさんある。この人が竜宮さまでも。
「あなたは、あの、サクヤさんなの?」
「ええ。そうです。私の名前はサクヤです」
 その人はゆっくりと繰り返す光の軌跡を見つめながら、半分上の空で事務的と言ってもいい口調で答えた。
「それであなたの名前は?」
「私の名前は都です」
 まるで初級英会話のような味気ない情報の交換。聞きたいのはこんなことじゃない。サクヤさんはこちらを見ない。まるでコンピューターを検索してモニターの情報を読むように、手のひらをひらりひらりと翻し、新しい窓を開いて動き続ける光の座標を目で追っている。
「そう。そうなの。都さん、あなたはあの子を追ってこんなところまで下りて来てしまったのね」
「あの子」
「でももう、あの子はここにいない。私も会えなかった」
 サクヤさんが両手をすっと開いて現れた新しい光の窓に懐かしい姿が現れた。銀の髪、金の瞳。ひょろりと背が高い少年のような立ち姿。
「鷹ちゃん!」
 でもその姿は鷹ちゃんのようで鷹ちゃんではない。もっと線が太い感じ。首が太い。肩も背中も広い。身長が高い。腕も足もがっしりしている。ふわふわ宙を浮いてばかりいた鷹ちゃんと違う。でもこの人は鷹ちゃんだ。私の知らない鷹ちゃんだ。岩山でいちど乾いたはずの涙がまたあふれて来た。物心ついてから泣いたことはない。涙を流したことがなかった。夜の底で、私は鷹ちゃんを失ってからの14年分を泣いている。
「ここまで来て、会えないんですね。ここにも、鷹ちゃんはいないんですね」
「ええ。この子はもう行ってしまった。だから私も行かないといけないのに、行けないの。捕まってしまっているの」
 サクヤさんは腕を伸ばして光の中の、私の知らない鷹ちゃんに触れようとしたが、指先がすり抜けたと思うと光は消えてしまった。消えてしまった。鷹ちゃんが消えてしまった。どうして。ここに来たら会えると思ったのに。ここに来たらどこへ行ったかわかると思っていたのに。
 私は石の床にへたり込んでしまった。ここからどうやって戻ればいいのか、もうわからない。
「ここは何なの。鷹ちゃんはどこに行ったの。あなたはどこへ行こうとしているの。私はどこへ行けばいいの」
 こんな風に感情を誰かにぶつけたことはなかった。こんな風に爆発すると地鳴りがして雷が落ちるからだ。でも夜の底は微動だにしない。私の知らない鷹ちゃんを知っている、このサクヤさんに八つ当たりしてしまった。サクヤさんは首を少し傾けて、やはり少し上の空で私がぶつけた質問にひとつずつ答えていった。手のひらを翻し、指で空を切り、次々と光のカードをくってはその占いの手を告げるように。
「ここは、もうない星。昔々にもう壊れてしまった。この塔とここを囲む岩山は、星が壊れる瞬間にミギワが作った空間。ミギワはここから動けない。そして私とあの子もいつもここに帰って来てしまう。今度こそ、星を見つけようと思うのに、見失ってここに帰って来てしまうの」
 サクヤさんが新たに開いた窓に風景が現れた。紫色の空。空気が薄そう。それでも日の光がある。風が吹いている。鳥の声がする。本物の緑がある。丈の高い草と潅木の茂みに隠れて、二人の子供が鳥の渡りを見ていた。銀の髪のひょろりとした少年と、温かそうな衣服にくるまれた黒い髪黒い目の8歳ぐらいの少女。ちょうど今の銀ちゃんと桐花のようだ。
「この星は文明の始めから、いつか星が壊れることを知っていた。予言じゃない。未来に確実に起こる事実として、その厄災を生き延びるために文明が生まれたの」
 予言じゃない。予定として、未来の厄災が確約された世界。
「なぜ、壊れるの? 惑星がひとつまるまる? そんなこと、有り得るの?」
 サクヤさんはもうひとつ窓を開いた。夜空。いや、宇宙空間だ。大気の揺れを通していないクッキリをクリア過ぎる星空。天空を横切って行く火星。そしてぼんやりした縞模様を浮かべた巨大な木星。
「あなたは知っているはず。あなたの世界もこの同じ空を見ているはず。知っているでしょう。木星と火星の間の石の群れ」
 頭をガンと殴られたようなショックだった。竜宮は別の星だったの? 鷹ちゃんに何度も星を見せてもらった。明るい海と星の降る空。鷹ちゃんの連れられて自在に飛べた。あれは竜宮につながる空間だと説明された。あそこは地球じゃないかったの?
「彗星が太陽系を横切る日時は正確にわかっていた。私たちの星を掠めることも。移住できる星を探して船を飛ばした。少しでも衝撃を減らすために、彗星とこの星そのものを動かす研究もした。船を遠くへ飛ばすため、星の位置をずらすため、厄災のリスクを予測して対策するため、私たちの科学は進歩した。そして重力を超え、時間を超える方法を見つけてしまった」
「時間を」
 途方もなさ過ぎてピンと来ない。タイムトラベルやワープだのワームホールだの出てくるSFなら山ほど読んだ。でもあれはあくまでフィクションだ。
「あなたにわかる言葉で言うとブラックホールを人為的に引き寄せて、重力波の歪みを利用する。そこでは時間の流れも違うから」
「船が時空を越えるのね」
「そう。移民船を飛ばす前に星を探す探査船を3つ飛ばした。その答えが届く前に、技術の権利を奪い合って戦争が起こってしまった。資源も時間も無駄に消耗して、そして結局、移民船は飛ばず、星をずらす実験も、彗星の軌道をずらす実験も失敗した」
 サクヤさんは2人の子供が鳥を見ている窓を指さした。
「この時、ミギワはもう時間が足りないことがわかっていた。探査船の答えはこない。船団が無事かどうかもわからない。移民船を作る時間も資源もない。彗星は昼日中でもくっきり見えるほど近づいていて、この星の地磁気がずれ、気候がすっかり変わってしまった。十年で大型の哺乳類と鳥類が絶滅した。森も消えてしまった。人口は3分の1に減った。私たちはこの鳥が戻って来る季節が来るまでに、星が消えることを知っていた。わかっていたのに。防げなかった」
 ノドがからからになった。わからないことが多過ぎて何から聞けばいいのかわからない。でもひとつだけわかっていることは、何もかも遅過ぎて何もかも終わってしまったということだ。でも終わってしまったのなら、なぜ私は竜宮をのぞくのだろう。桜さんも咲さんも、葵さんも、住吉の女たちは竜宮をのぞいては、その力を借りて歪みを治して来た。柱の姫は歪みが台地を引き裂かないように、結界を守って来た。
 私たちの世界も。この星のように? もうない星のように? 失敗したら。答えが届かなかったら。守り切れない。いつか私たちも。引き裂かれる。崩壊する。真っ暗な空間に。飲み込まれる。助からない。みんな消える。私たちは。失敗する。誰も残らない。みんな消える。
「都さん!」
 床にへたり込んでパニック状態になっていた私の肩を、サクヤさんが揺すぶった。
「消えていない。私もあの子も生き延びた。星は壊れたけれど、私たちは空間を越えた。探査船も時空を越えた。まだ終わっていないの。続いているのよ、あなたの時間に」
 夜の底の、もうない星の時間が、私たちの時間に続いている。このサクヤさんがあの子と呼ぶ銀の髪の少年は、鷹ちゃんに続いている。このサクヤさんは、誰に続いている? 私が12の時、鷹ちゃんは住吉から消えた。時空を超えて、鷹ちゃんは今どこにいる?
PR
*COMMENT-コメント-
*COMMENT FORM-コメント投稿-
  • この記事へのコメント投稿フォームです。
Name:
Title:
Mail:
Url:
Color:
Decoration: Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Message:
Pass: ※編集時に必要です。
Secret:  ※チェックすると管理者へのみの表示となります。 
目次(ヴァル)
「姫おり」過去編
織姫のお仕事
     4.0
   4.1 4.2

カルミノ編 1日目 『桜降る夜の森に』 2日目  『雷鳴の封印』  『拾い子』  『森の中の星空』 3日目  『再生の呪文』  『春日なる』 4日目 祝宴 お茶会  『おすそわけ』  
イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
 出口1
『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

カルミノ編 前夜祭 『Happily Ever After』01 1日目 『Happily Ever After』02 『Happily Ever After』03 『Happily Ever After』04 『Happily Ever After』05 2日目 『Happily Ever After』06 『Happily Ever After』07 3日目 4日目 祝宴 お茶会  『romanesque』
イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
シュアラ編 『Front breaking』 『Dell'oscurità per brillare』 『End symptom』 【露癒の祀】 拾壱>拾弐
エイロネイア編  『daily workⅠ』 『覚醒ヒロイズム』 EPISODE1 EPISODE2
最新コメント
[09/12 梧香月]
[05/16 Backlinks]
[12/16 ヴァル]
[12/15 梧香月]
[11/25 ヴァル]
[11/21 小春]
[09/28 ヴァル]
カレンダー
07 2018/08 09
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
ギャラリー



漫画



季節のアルバム




漫画
カウンター