忍者ブログ

《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

2017.10│ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31

『終端の王』

何が終端の王だかよくわからないけども…(じゃあ何のためのタイトルだ)
ちびれーとクロイツの昔のお話。
鬱、あんどちょっと生々しい注意報。

=========================================
 
「きゃああああああっ!!」

 その日、エイロネイア城に轟いた悲鳴は、長い廊下全体を貫いて、自室で横たわっていたレアシスの耳にまで届いた。瞬時に目を開き、小さな身体をベッドの上に起こす。
「殿下、まだ熱が……っ」
「へいきだ、アリッシュ。行こう」
 無感情に言い捨てて、椅子の上のケープを纏い、いち早く部屋を出る。まだアリッシュの腰ほどの背しかない少年は、歳不相応の速さで一気に廊下を駆ける。アリッシュは額と腕に巻かれた包帯に、こっそりと唇を噛んで、その後を追った。
 悲鳴は廊下の向こうの大部屋からだった。さすがに背が足りず、大きな扉に四苦八苦していたレアシスの代わりに、アリッシュがノブを回す。開いた扉の向こうに、へたり込んだメイドの後ろ姿があった。
「こ、皇太子……殿下……」
「何があった?」
 震える声で、抜かした腰を引き摺るメイドに問いかける。彼女はがちがちと歯を鳴らしながら、蚊の鳴くような擦り切れた声で言う。
「で、でんかの……お、おくられてきた、分家さまの、ぷ、ぷれぜんと……が……」
「……」
 何となく予想がついて、レアシスはアリッシュにメイドの介抱を頼んだ。アリッシュは頭を垂れて、彼女の肩に手を置いて宥める。
 レアシスは静かな靴音で部屋の中央に進んだ。中央には、こんもりと、小さな山になった包みや箱の群れがある。それを無表情で見上げて、小さく息を吐くと、床に落ちた、開かれている箱を手に取った。きっと検査のためにメイドが開けたのだろう。
 豪奢な金糸の装飾がなされた箱。リボンは絹の赤。クリスマスローズがかすみ草とミニ薔薇で彩られた、美麗なコサージュが括りつけられている。メイドはどんな気持ちでこれを開けたのだろう。どんな中身を期待して?
 シルクの夜会帽子か、はたまた魔道銀で編まれたマフラーか。まあ、何でもいい。
 現実を予想しながら、レアシスは中に詰められていた薄い緩衝材を払う。そして不快な匂いに秀麗な顔を歪ませた。

 ひらひらとした柔らかな緩衝材に包まれていたモノ――猫の、生首。

「……」
 挟まれていたクリスマスカードを手に取る。『ウィンチェスター』。昨年死んだ、義理の母親の旧姓だった。
 レアシスは静かに呪を紡いだ。ざらり、と猫の無残な骸が砂に変わる。右腕に痛みが走った。また痣が増えたかな。ああ、まあどうでもいいや。この程度の呪いでどうにかなるような化け物の体じゃない。もう。
 ぱたん、と箱の蓋を閉じる。そのまま青い炎が立ち上って、豪奢な箱は一瞬のうちに灰へと姿を変えた。
「殿下……」
「アリッシュ。すまない。ここをかわってあげて。
 まともなものがあったら孤児院にでも流してあげて。お金に変えてからでも、そのままでも、判断はまかせるから」
「……承知しました」
 ばたばたと、廊下の向こうから足音が響いてくる。やがて、無骨な武具を携えた親衛の兵士たちが駆け込んでくる。
「何事ですかっ!?」
「……そうぞうしい。何もない。そうあわてなくていい」
「フェルディナント、殿下の御前です。荒々しい音は控えるように」
「しかし、この騒ぎは……っ」
 言いかけてフェルディナントは口を噤む。遅れて騎士団の背後から足音を立てず、歩み寄ってきた長身の人物に、慌てて頭を垂れる。アリッシュもそれに習い、レアシスはわずかに目を伏せた。
 頭上に冠を掲げ、白髪混じりの髪を結わえた壮年の男。紫のローブとマントが翻る。レアシスはこっそりとその目を盗み見る。眼光は鋭いが、でもどこかうつろな表情だった。
 エイロネイア皇帝ヴェニア=レベルト=エイロネイア帝。
「何の騒ぎだ、ロレン」
「さわがせてしまい、もうしわけありません。父上。さまつなことでございます。父上がお気になさるほどのことでは、」
「私は何事かと聞いているのだ」
 単調なくせにどこか威圧のある声に、レアシスは密かに舌を打つ。
「わたくしがちょうだいいたしました贈りもののなかに、ふそうおうなものが混じっておりました。……ただ、それだけのことです」
「そうか。騒々しい。その程度のことで騒ぐでない」
「もうしわけありません」
「ち、違います。殿下ではなく、私が……」
 アリッシュに支えられたメイドが震えた声を上げるのを、レアシスは片手で制した。今一度、頭を垂れる。ヴェニア帝はそれを一瞥すると、踵を返しかける。
「ロレン。聖霊祭には出席するようにしろ。王族としての義務だ」
「……はい」
「お待ちください、皇帝陛下。殿下は、まだ先日召された風邪熱が収まっておりませんで……」
「死ぬような病でもないだろう。そんなものは欠席の理由にも値しない。ロレン、聖霊祭への出席は王族としての義務だ。果せ。わかったな」
「……はい、わかっております」
 ばさり、とヴェニア帝は踵を返す。その影に立っていた、金髪の女が薄い笑みを湛えてこちらを見ていた。レアシスは静かな目でにらみ返したが、女はわずかに笑っただけで、会釈をすると皇帝の後を追った。
 皇帝の一喝に、がちゃがちゃと鎧の音を響かせて、兵士たちも去っていく。時折、背後を気にした者もいたが、とうとう歩みを止めることはなかった。
 部屋には最初に悲鳴を上げたメイドとアリッシュ、それからレアシスだけが残された。
「……殿下」
「……」
 レアシスは無言で大部屋の大窓を開けた。冬の冷たい風が吹き抜けて、寝姿にケープを纏っただけのレアシスの体を薙いでいった。
「殿下?」
「……出てくる」
「殿下!」
 アリッシュは声を荒げて、小さな肩を掴もうと手を伸ばした。だが、数瞬遅く、伸ばした手をすり抜けて、幼い体はそのまま宙に舞った。


 たゆたっている。ただの流れの中。温かくも冷たくもない。粒子と重量が、体に当たっては別の方向に流れていく。
 髪の合間を、指の狭間を。無数の流れが打ってはすり抜けていく。閉じた闇の中では何も見えない。何も感じない。何も……思わない。
 ゆっくりと流れの中に巻かれていく。最初に指と髪の感覚がなくなる。どこからが自分の指だったか、忘れ始める。
 いっそ、このまますべてを忘れられたら。
 いっそ、このまま流れの中に消えてしまえたら。
 それでもいいのかもしれない。
 このまま溶けて消えたら、父上は一体、どんな反応をするんだろうか。きっとあの頑固な眉をわずかに上げて、「そうか」と呟くだけですべて終わる。わかる。だって兄上のときも、義母上のときもそうだったから。
 結局、このまま自分が消えて、何か変わるのだろうか。いや、違う。このまま残っていて、何も変わらないから消えたいと願うのだ。
 なら、このまま心地良い流れの中に溶けてしまった方がいい。
 ゆっくりと目を閉じる。そのまま、ふっと力を抜こうとして、

「殿下ッ!!!」

 鋭い声が飛んで、いきなり意識が現実へと引き戻された。
 体が浮いているのがわかる。目の前に自分の手を引いて、真っ青になっている見慣れた男の顔があった。
「……クロイツ?」
「何、考えてるんすかっ!? こんなとこでっ!?」
 冷たい沢の水の中からレアシスを引きずり出した青年は、慌てて岸辺へ少年を移動させた。黒い髪も服も、冬の冷たい清流の中でびしょ濡れだった。それなのに、空っ風が容赦なく吹き付ける。
 クロイツは舌を打つ。
「今の時期に水に浸かるなんて何してんすかっ! 中将の命令で探しに来てみれば、肝が冷えましたよっ!!」
「……ごめん」
 心の宿らない謝罪だった。クロイツはそれに気がついて歯噛みする。すまないと思いながら、レアシスはそれを無機質な目で眺めることしか出来なかった。
 クロイツは自分の上着を脱いだ。それを小さな肩にかけようとして、小さな手がそれを止める。
「殿下……?」
「もういい。寒くないから」
「何言ってんすか。濡れてこんな風の中で寒くないわけ……っ!」
「言い方が悪かった。もう、寒く感じないから。いいんだ」
「……?」
 レアシスは濡れた服を引き摺りながら、また沢の淵に足をかける。クロイツは止めようと声を上げかけたが、レアシスは沢の石にこびりついていた氷を拾っただけだった。
 最初は首を傾げたクロイツだったが、次第に彼の言いたいことを理解する。……溶けない。冷たくなっているとはいえ、体温にさらされているはずなのに、その氷は、いつまでも溶けることはなかった。
 クロイツの顔が真っ青になるのを見て、レアシスは氷から手を離す。薄氷は沢の岩に叩きつけられて、呆気なく、ぱきん、と乾いた骨が折れるような音を立てて、割れた。
 貴族相手にはもっと上手く嘘が吐けるのに。やっぱり、自分は甘えているんだろうか。
 割れた氷の欠片を自らの足で踏みつけて、少し苛立ちながら思う。
 小さな、冷たい体がまたひょい、と浮く。
「クロイツ?」
「帰りましょう。風邪、悪化します」
「……」
 本当は風邪なのではない。発作だ。無茶苦茶な、力の種を植え付けたが故の後遺症。もうどうすることも出来ない。
 でもそれをクロイツに言うことは出来ない。クロイツは勘が鋭い。自分の身体が、何か厄介なものに侵されていることは知っているだろう。でも、それをただの病気だと思っている。それ以上、言えない。言うつもりもなかった。
 木々の間を凄まじいスピードで駆けていくクロイツの背中に掴まりながら、レアシスはぼんやりと考える。
「クロイツ」
「?」
「着いたら、たのみたい仕事がある」
「何すか?」
「孤児院に。荷物をとどけてほしい」
 ひくり、とクロイツの眉が動く。
「俺にサンタクロースになれ、ってことですか」
「言っておくけど、君のためじゃない。君のおとうとと、孤児院の子たちのためだ」
「殿下も子供じゃないっすか。子供からクリスマスプレゼントを貰うほど、俺も落ちぶれちゃいません。仕事だって言うならやりますけど、その後は王城に戻ります。
 エノなら分かってくれます。休みに遊びに行ってやってるし、あいつは独りじゃないすから」
「……君はわかってないね」
「?」
「祭りごとは理屈なしに肉親にあいたくなるものだよ。だいじょうぶ、僕には会いたい人もいないから」
 クロイツは眉間に皺と寄せる。背中の、まるで幽霊[ゴースト]のように冷たい身体が、遠すぎて、何も口に出来ない。
「……殿下」
「?」
「俺のポケット、漁れますか? 俺、今、両手塞がってるもんで」
「……?」
 レアシスは言われた通りに、クロイツのポケットに手を伸ばす。こつん、と指先に固いものが当たって首を傾げる。手で取ってポケットから取り出して、きゅ、と目を細める。
 ころん、とした白い包み。何の変哲もない飴玉だ。
「出先で貰ったもんですけどね。貧乏なもんで、こんなくらいしか出来ないすけど」
「……」
「ココナッツ味。好きでしたよね?」
「……」
 何も言うことができなかった。ほんの少しだけ、身体の芯が疼いた気がする。でも僅かな疼きは、それが身体に行き渡るより先に氷のように割れて散ってしまった。
 動かない。動かしたいのに、どうしても冷えた体と心が邪魔をする。嬉しいのに笑顔も涙も出ない。本当に、ごめん、クロイツ。何も詮索しないで受け取れる、唯一のクリスマスプレゼントだ。嬉しいのは、本当なんだけどな。
 負ぶわれていてよかった。礼を言う顔が苦笑だなんて、とても薄情な人間だ。人間? ん、どうだろうな。
 ……半分痺れた舌でしか飴を転がせない人間は、果たしてそう言うのかな?
「クロイツ」
「なんすか?」
「……ありがとう。ぼくは、シアワセものだね。だいじょうぶ」
PR
*COMMENT-コメント-
▽れーくん、抱きしめてあげたい。
どうして、こんなにつらい目に遭わなきゃいけないの? こんなにいい子なのに……。
クロイツ、かばってあげてね。でも、暴走しちゃダメだよ?
▽それは…
……私がどSだから?(違うか)

いい子だからずるい生き方ができない。ひどく不器用な子なのです。
抱き締めて頭を撫で撫でしてあげたい。
「ごめんね。おつかれさま」
*COMMENT FORM-コメント投稿-
  • この記事へのコメント投稿フォームです。
Name:
Title:
Mail:
Url:
Color:
Decoration: Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Message:
Pass: ※編集時に必要です。
Secret:  ※チェックすると管理者へのみの表示となります。 
*TRACKBACK-トラックバック-
  • この記事のURLとトラックバックURLです。
  • 必要に応じてご使用くださいませ。
この記事のURL▼
この記事のトラックバックURL▼
目次(ヴァル)
「姫おり」過去編
織姫のお仕事
     4.0
   4.1 4.2

カルミノ編 1日目 『桜降る夜の森に』 2日目  『雷鳴の封印』  『拾い子』  『森の中の星空』 3日目  『再生の呪文』  『春日なる』 4日目 祝宴 お茶会  『おすそわけ』  
イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
 出口1
『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

カルミノ編 前夜祭 『Happily Ever After』01 1日目 『Happily Ever After』02 『Happily Ever After』03 『Happily Ever After』04 『Happily Ever After』05 2日目 『Happily Ever After』06 『Happily Ever After』07 3日目 4日目 祝宴 お茶会  『romanesque』
イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
シュアラ編 『Front breaking』 『Dell'oscurità per brillare』 『End symptom』 【露癒の祀】 拾壱>拾弐
エイロネイア編  『daily workⅠ』 『覚醒ヒロイズム』 EPISODE1 EPISODE2
最新コメント
[09/12 梧香月]
[05/16 Backlinks]
[12/16 ヴァル]
[12/15 梧香月]
[11/25 ヴァル]
[11/21 小春]
[09/28 ヴァル]
カレンダー
09 2017/10 11
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31
ギャラリー



漫画



季節のアルバム




漫画
カウンター