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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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『GLORIA』 EPISODE3    香月

怒涛の7連up始めます。(お前、この一週間何やってんだ)
…いや、ネットもゲームもないと、意外とアフター5ってヒマなんですよ。

ティオくんの本登場です。ものすごく楽しかった。きひひ。

=======================
 
 思わぬ拾い物だった、とリーは内心でほくそ笑んでいた。
 春の薬草が目の前で次々と粉と薬になっていく。薬師のテントのさらに外側に、ぽつんと設置された彼女用のテントの下で、彼女はもくもくと手を動かしていた。
 薬の処理というものは、大抵数日以上かかる。水に晒さなくてはいけないもの、火にかけなくてはならないもの、乾燥させなくてはならないもの、繊維から潰さなくてはならないもの。けれど彼女の周りで火花が舞ったり、弱い風が吹く度に、何時間もかかるはずのその作業は数分で終わっているのである。ときどき、リーさえ知らない配合をしていることもある。ただの駄薬に見えたそれは、彼女が一言二言、意味のあるのかないのか解らない言葉を口にする間に、高級薬に姿を変えた。
 リーはスオミがベルサウス少佐のところにはたまに恐ろしく時期外れの薬や草がある、と言っていたのを思い出した。あれはこういったノウハウの賜物なのかもしれない。
 長く旅をしていたけれど、遠目から見るばかりで、魔道の世界に直に触れたのはリーも初めてだった。

 リーのテントは陸の孤島に立っているわけではない。自然と彼女の作業とノウハウの鮮やかさは、1日のうちに集落の者たちの知るところとなり、その手際を学びたいと申し出てくる者が出てきた。
 だが、そればかりではなかった。
「……おばあちゃん、ちょっといい?」
「なんだい?」
 小休止に手製の粟団子を持ってきたリーに向かって、ルナは小さく眉を潜めた。
「……何か妙な視線を感じるんだけど」
「妙な視線?」
「いや、妙っていうか敵意とかはないんだけど……。やたらと多く視線を感じるような」
 汗ばんできた赤装束のヴェールを取り、温かい茶を飲んで、ほう、とルナは息を吐く。ぱさり、と赤い装束の背中に綺麗な栗色の髪が広がって、天使の輪を描いた。
 リーがふ、と笑って彼女の頭を指差す。
「それだよ、それ」
「へ?」
「習いにきたのに、年頃の男が多くなかったかい?」
「そういえば……」
 リーのところで薬の手伝いをし始めてから2日。今日は朝から「教えてくれ」と言ってくる人間が多かった。
 イドラの交易品は主にルパの毛から作った毛織物である。エクルーは自分のデザインでブランドを作ろうとしている。だが、毛織物は泉守の仕事、ブランドは当然デザインの才能が必要不可欠。
 イドリアンの美的センスは人種としてかなり高い。だが、誰もが毛織物を織れるわけでも、ブランド品をデザインできるわけでもない。
 そこでルナは少しずつ、大陸では高級品として扱われる薬の作り方をイドリアンたちに伝授していた。
 調合を行うのは薬師だが、指示に従って薬草を潰すくらないなら子供でもできる。土地が栄えるには、特別な才能の輸出だけでは足りない。誰もが参加できる産業が必要なのだ。
 だから、教えるのはもともと苦ではない。なのだが、
「やたらと声をかけられたんだろ? 若い男ばっかりに」
「……う、ん。まあ……言われてみれば多かったような」
「みんな、あんたのファンだよ」
 ぱしゃん。
 ルナの手から茶のカップが滑り落ちた。
「……うわきゃっ!?」
「ほらほら、何やってんだい」
「いや、だってだって? 何? 今、何て言った?」
 まともに引きつった顔で、零れた茶を拭きながら問う。リーは煙管をくゆらせながら、にたにたと笑って彼女の頭に触れた。
「イドリアンの美的センスは知ってるだろ? 私らにはね、胸が出っ張っててもお尻が大きくても、さして問題じゃないのさ。大事なのは尻尾と目の綺麗さだ」
「……私に尻尾なんかないわよ」
「メドゥーラのところのアヤメもモテてただろう? あの子は髪の毛が綺麗だったからだ。あんたの栗色の髪も、その翠色の目も、奴らにとっては立派な女神様なんだよ」
「……は?」
「まだわかんないのかい? つまり、そのあんたの感じてる妙な視線てのは、みんな、あんたに憧れる連中が、ぽけーっとあんたに見惚れてるんだよ」
 ルナはつぶらな大きい瞳を見開いてリーを見た。信じがたい表情で。
 憧れる? 見惚れる? 誰が、私に?
「春祭りが終わったばかりだからね。戦い破れて、新しい恋を求める子たちがたくさんいるわけだ」
「……私、一応人妻よ?」
「家出してきた女が言うかね。傍目にはそう見えやしないよ」
 涼しい顔で茶をすするリーに、ルナは頭を抱えた。
「何でそうなるのよ……」
「普通、女は14、5になったら、そういう男のあしらい方を覚えるもんだがねぇ」
「……知らないわよ。別に、エクルーやアヤメみたいにモテたわけじゃないし……」
「めぐり合わせが悪かっただけだろ。メーちゃんに聞いてみな。向こうの集落だって、あんたに目を留めてる人間は少なくないと思うが。
 まあ、処世術と思って、あしらい方を覚えるんだね。ほら、また来たよ」
 カップを片付けて、最後の団子を口に放り込んだルナの耳に、ぱかり、ぱかり、とルパののんびりした蹄の音が聞こえてきた。顔を上げると、カヤの木の下を通って、見覚えのある青年がこちらに向けて手綱を引いているのが見えた。
 ゆらゆらと金色をした尻尾が立って揺れている。……やたらと表情がきらきらと輝いているような気がするのは、あえて気づかないふりをしよう。
「こんにちは、リー様。あの、先日は失礼しました」
「ああ、ティオ。まあ、いいがあんまり慌てた行動をするんじゃないよ」
「はい、申し訳ありません」
 ルナがリーのテントに来た初日、黒牛を届けにきていたあの青年だった。彼はまず、深々とリーに頭をさげると、ルパの手綱を木に結び付けてテントまでやってくる。
「あの、ルナさん。ボクにも薬の作り方教えてくださいませんか?」
「……いいけど」
 そう言って礼をしながらテントに入ってきた青年の表情は、至極真剣だった。「ありがとうございます」、と頭を下げながら、乳鉢の前に正座する。側に積んでいた薬草の束を手に取って、ルナは溜め息を吐いた。
 ――まあ、いいか……。この子は真面目そうだし……。
「あんた、何で薬なんか作りたいの?」
「いえ、あの……僕も大学に行く学費を貯めたいと思って」
「ふぅん……」
 イドリアンの留学自体は、スオミが学生だった頃からあったらしい。だが、ここ2年で行われた国交の正常化のせいなのか、若者の中に大陸への憧れが一層、芽生え始めたようだった。
 今年もイズミやリィンがシュアラやエイロネイアに行くという話だ。リーの集落にもスオミのように留学をしたい、と言い出す者がいるのはおかしくない。
 だが、
「あの……」
「ん?」
「あの……ルナさんって綺麗ですね。髪がつやつやで。目も大きくて」
 ばさっ。
 乾燥させたカミツレの束が、ルナの手から滑り落ちた。崩しかけたバランスを、薬箱に寄りかかって何とか保つ。
「……はい?」
「それにこんなことも出来て、魔術もお使いになられるんですよね? リー様に聞きました。お一人で旅もなさってたとか」
「……いや、あの……」
「女の人なのに、ひとりで旅してるなんてすごいなあ。憧れます。強くて賢い女の人なんて……それに綺麗だし」
 ――うぐ。
 ぞわり、と背筋に寒気が走った。乳鉢に集中させた視線をおそるおそる上げる。目の前で薬草が渡されるのを待っている青年は、ただでさえ純な目をきらきらと輝かせながら、こちらを見つめていた。
「……と、とりあえず……そっちの草、潰してくれる? 8分殺しくらいでいいから」
「はいっ」
 敬礼でもしそうな勢いの声だ。
 助けを求めるように、テントの外で煙管を吹かすリーを見るが、彼女は知らず存ぜぬであさっての方向を見ているだけだ。
 ――……私に一体、全体どうせぇと。
「……あのさ」
「はい?」
「別に薬の作り方一つで……世辞なんていいのよ?」
 ティオの金色の尻尾がぴん、と立った。
「そんな、お世辞なんて言ってませんよ!」
 やたらと大きな声に、今度は面食らう番だった。薬草の束を不自然な格好で抱えながら、声の大きさに硬直してぱちくりと目を瞬かせる。
「あ、す、すいません。大声出しちゃって」
「い、いや……別にいいけど……」
「僕、こんなに綺麗で強い女の人、会ったの初めてだから! あの……気に障ったらごめんなさい」
 立ちくらみがした。アヤメもイリスも凄い。何で、こんなものに耐えられるのだ。馴れているのか?
 だん、と足を踏み鳴らして遠ざかった意識を保つ。
 が、
「ご結婚なさってるんですよね……。あなたみたいな人のダンナさんって、きっと素晴らしい人なんだろうなぁ」

 がらがっしゃん!

「だ、大丈夫ですか!? ど、どうしたんですっ?」
「……いや、何でもない、何でもない……大丈夫」
 そのまま薬草の山と処理器具の中に倒れ込んだルナに、ティオは慌てて立ち上がった。
 本気で眩暈がした。トシゴロの男の子というのは、こんなにも夢見がちなものだったっけ? レンやら雪路やら、果てはあの男やら御大やらとばかり付き合っていたせいで、全然知らなかった。
「あの、怪我ありませんか? すぐリー様に……」
「いや、大丈夫、大丈夫。意外とこういうのには馴れてるから……」
「駄目ですよ! 女性なんですから、痕でも残ったらどうするんですっ?」
 確かに少し腰が痛いけども。
 突っ込んだ本人よりも慌てて、ティオは倒れ込んだままのルナの手を引いた。ふわり、とした毛並みが手の甲を包む。

『噂の刹界の魔女が、随分と細い女だな。ほれ、さっさと立てよ』

 ――……。
 ルナは慌てて首を振った。馬鹿だな。重症だ。こんなところで思い出すなんて。
「大丈夫ですか? 怪我はないですか?」
 イドリアンの青年は、過剰なほど心配そうな顔を向けてくる。その顔も、尻尾も、何より言葉も、何もかも被るものなんてないじゃないか。何をしてるんだろう。失礼にもほどがある。
「くっくっく、どうだい。ティオは真面目ないい子だろう?」
 妙な含み笑いをしながら、リーがテントに入ってきた。ティオは急いで居住まいを正して、正座をする。
「いえ、そんな……。リー様やスオミ先生の恩恵に授かっているだけです」
「そんな謙遜するもんでないよ。あんたは真面目だし、立派な成長株だ。
 そうだ、足りない薬草があるもんでね。ティオ、明日あたり、そっちのお嬢さんをうちの谷に案内してやんな」
「え?」
「ちょ、おばあちゃん!?」
 さすがにへたり込んでいたルナも慌てて身を起こした。
「ここの近くには、私が管理してる谷があってね。毒草もあるから、あまり人には見せられないんだが、あんたなら下手な間違い起こさないだろう?
 ぜひ、見て欲しいんだよ。貴重な薬草もたーんとあるもんでね。ティオ、頼んだよ」
「ええと、僕でよければ……」
「ち、ちょっと、ちょっと……」
「ティオは真面目な集落の薬師の卵だからね。まあ、一宿一飯の恩義と思って、あんたからもいろいろ教えてやってくれ」
 言ったリーの表情は当然ながら、にまにまと笑っていた。嵌められた。そんな言い方をされては、無碍に断るわけにもいかない。
 ルナはぐったりしながら、首を振った。縦に。
「……わかったわよ……。まあ、私も興味はあるし……お願いね、ティオ」
「あ、は、はいっ!」
 戸惑っていた顔が、一気に明るくなった。尻尾がぴん、と立っている。リーに「落ち着け」と言われたばかりじゃなかったっけ? と主旨でないことばかりを考える。
 それからティオはひとしきり、「明日は迎えに来ます」、「袋とルパは用意して来ますから」などと言ってから、一つの薬の調合を覚えて帰っていった。ルパを早駆けして帰っていく彼に、顔を引きつらせながら手を振って、ルナは不自然な笑顔のまま、
「……どういうつもりよ、おばあちゃん」
「どういうつもりも、こういうつもりも。言った通りだよ。あの子にいろいろ教えてやって欲しい、ってだけさ。
 あの子はここから一歩も外に出たことないから。あんたみたいに独立してひとりで旅している人間がうらやましいんだよ」
「いや、それはわかったけど……」
「あんたにしたって、ダンナ以外の男は知らないんだろ? たまにはいいんじゃないかい? 他の男と話すのも。
 別にあの子に押し倒されたわけじゃないんだ。適当に相手してやれ。これも教育のうちだよ」
「……」
 さらりと言ってのけるリーに、ルナはジト目を送る。だが、老齢のイドリアンにそんなものが通じるわけもなく、リーはもくもくと散らかった薬草と道具を片付け始めた。
「ほら、明日は一日いないんだ。明日の分も手を貸しておくれ。あんたがいると速く済む」
 ルナは深々と溜め息を吐く。空を仰いで、不安に肩を竦ませた。
 ――……どうしろ、っていうのよ……本当に。
 まったく、明日はとんだXデーになりそうだ。


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*COMMENT-コメント-
▽爆笑
珍しい! うろたえるルナ!
これも勉強だ。がんばれ、ルナ。
しかし……ティオ、無邪気な顔して破壊力スゲエな。チャットのノリで作ったキャラだったのに。
▽いやあ、楽しかった(鬼)
軽いノリで話しかけられるか、けなされるのには馴れているけど、まじめっ子そうな年下に口説かれるような経験は皆無なのです。
何せ、一番身近だった男がレンだったしね。

書いてて異常なくらい楽しかった。
ティオ君、ありがとう(オイ)。
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いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
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目次(香月)
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