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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

2017.04│ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30

『I'll be there』EPISODE3

私の書くカップルはどこか夫婦じみてくる不思議。
クリスマス小説あかねれー版、3番目。
かゆい。

豪華でも派手でもなくていい。

========================================
 
「ん……?」
 額に冷たい感触を感じて、レアシスは薄っすらと瞼を上げた。いつものように庭園に来て、眠るつもりはなかったのに、いつのまにか意識が夢と現の合間を漂っていたらしい。
 心地良いようで気だるげな感覚の中で、何とか視力と判断力を行使する。ぼやけた視界の中、逆光に銀の光が煌いて見えた。
「アカネ……」
「大丈夫?」
「すまない。僕、寝てた?」
「あ、動かないで。微熱出てるのよ?」
 額に手を当てると、濡らされたハンカチがあった。椅子の上から上体を起こそうとして、アカネが肩を抑えて来る。抵抗が無駄だと悟っていたレアシスは苦笑しながら、また椅子の背もたれに身を預けた。
 アカネは仕方無さそうに溜め息を吐いて、少し前に彼が庭園に忘れていったケープを冷えた体にかけた。
「久しぶりに会えたと思ったら、ぐったり寝てて。微熱まであるんだもの。また、無理をしてるんでしょう?」
 少しだけ目を怒らせてアカネが言った。レアシスは薄く笑って、出会った頃より大分伸びた彼女の髪を楽しそうに梳く。伸びた髪が、見覚えのある髪飾りに留められているのが嬉しくて。
 でも、その手が恐ろしく冷えていて、アカネは思わずぎゅう、と握り締めた。
「無理しないで」
「……ごめん」
「謝らなくていいの。だから、自分をいじめるのはやめて」
 斜めに傾いた椅子の背もたれの上で、立った大地の上に聳える帝国の主は、ふう、と疲れたような吐息を吐き出した。
 手招きされて、椅子の隣に座っていたアカネは身を乗り出して、黒い瞳を覗き込む。
 軽く身を起こして、レアシスは女性特有の丸みを帯びた彼女の肩口に顔を埋めた。額に乗せられていたハンカチが落ちる。悪夢を見た子供が、泣き疲れて甘えるように。
 アカネは一瞬だけ顔を赤らめたが、少し考えて手を伸ばした。彼の頭の後ろで結ばれていた眼帯の紐を外し、そのまま抱き寄せるように髪を撫でる。
 金糸で編まれた、レアシスの素面を隠す布が、はらりと落ちる。アカネは彼の長い前髪を掻き揚げて、歪んでひび割れた、瞳の失われた瞼に静かに口付けた。
「……ありがとう。すまない」
「今さらそんなこと言わないで。私が好きでやっているの。
 嬉しいのよ。初めて貴方がこれを外してくれたとき、私、本当に嬉しかった。貴方が甘えてくれるのが、本当に嬉しいの」
 アカネの着ている研究院の制服から、冬薔薇の香りが薄っすらと立ち上る。いつのまにか、庭園と同じ匂いがするようになった。でも、イドラの泉と太陽の匂いもする。レアシスにとっての二つの故郷がそこにあった。
 ――いつのまにか、帰る場所が増えたな。
 懐かしむように目を細めると、アカネが少し真面目な表情で首を傾けた。
「最近、特に忙しいの?」
「……年の末だからね。決算と式典が山のようにある」
「そうなの。でも……」
「?」
「何か心配そうな顔してる。眉間に皺寄せてばっかり」
「そうかな? 今の心配は君が急にイドラに帰ってしまわないかだけだよ」
 アカネはほんの少しだけ頬を染めながら、唇を尖らせた。「誤魔化さないで」と文句を言うと、曖昧な顔で微笑まれた。
 ふと、何かを思いついたようにレアシスが身を屈める。テラスのテーブルの下から、何かを引っ張り出した。
 アカネが首を傾げていると、その手元に白い箱がとん、と手渡された。両手で持てるほどの大きさの、飾り気のない箱。シルクの赤いリボンが少しだけ箱を彩っていて、リボンの結ばれた中央にピンク色のクリスマスローズ。華美でも派手でもない、落ち着いた装飾。
 アカネが目を瞬かせてレアシスを見上げた。彼は小さく頷いてみせる。さっと顔に血が上るのがわかった。
「少し早いけど」
「……いいの?」
「大したものじゃなくてすまないね。ポケットマネーだし、時間も少なかったから」
 アカネは大きく首を振る。そっと散らないよう、クリスマスローズを持ち上げると、優しくリボンを解いた。
「あ……」
 白い箱の蓋をどけると、綺麗な黄昏が目に飛び込んで来た。柔らかな夕日の光をそのまま編んだような布地。アカネが箱の中からそれを持ち上げると、ふんわりとしたストールが広がった。
「これ……サリー?」
「イドラの上質な絹に比べたら、あんまり上物じゃないけど」
 鮮やかな朱色から、淡い光の末端の色まで。柔らかなグラデーションを描くサリー布とペチコート、それからブラウス。
 エイロネイアでは民族衣装として着られる。だから、特に学生に手が届かないほど高い、なんてことはないのだけれど。でも、けして絶対必要なものでもなかったから。着てみたいと思いながら、アカネは今まで買ったことも着たこともなかったのだ。
 彼は皇帝だ。それ以上ない、贅沢な生地を織り込んだ上物のサリーをいくらでも用意できたと思う。でも、彼はそうしなかった。だから、つまり……きっと、エイロネイア皇帝陛下じゃない、レアシス=レベルトとしてこれを選んでくれたのだ。
 アカネはさらに激しく首を振る。サリーと同じ色の石が嵌まった髪飾りが、しゃらんと揺れた。
「そんなことどうでもいいの。嬉しいわ、すごく綺麗」
 夕日色のストールを抱き締めたまま、彼女は色と同じような柔らかい微笑みを浮かべる。
 どうして彼女といるとこんなにも、いつも張り詰めさせている気が抜けてしまうのか。すう、と息を抜いた瞬間、当たり前のように彼女の肩をもう一度、抱き寄せていた。
「レアシス?」
「……何でだろうね」
「?」
「侯爵夫人への誕生日だとか、外国の后様の祝辞だとか。あれが駄目、これが駄目、そんなものは面倒くさいくらい、あれこれ気を回さなきゃいけないのに、」
 するり、と彼女の手の中のストールを持ち上げる。柔らかな布地を口元に寄せて、軽く口付けながら、
「君に選ぶときは楽しかったし、すぐにこれがいいと思った」
「……そういうことばっかり言って」
 大分、慣れてきたつもりなのに、まだ少し頬が赤らんでしまう。くすくすと耳元でいつもの笑い声が聞こえる。アカネは少しだけ黒いケープに顔を埋めて、視線を上げた。
「クリスマスパーティーの招待状、届いた?」
「……ああ」
「行けるの?」
「……うーん、どうかな。式典には出ないといけないから……なるべく、急ぐよ」
「なら、やまわろのところで待ってるから……」
「いや、」
 レアシスは首を振ってアカネから身体を離す。アカネは黒いケープを離しながら、ぶるり、と身震いをした。
 何故だろう。身体を離した瞬間、何故か、ひどく寒く感じた。はっとして彼の顔を見上げると、彼はいつも通りの微笑みを浮かべながら、
「どうなるかわからない。やまわろのところは寒いし、それに皆、君を待っているだろう。
 ……先に行っていて。すぐに行くから」
「でも、平気よ? イドラなんて、ここに比べたらもっと寒いんだから」
「もしかしたら夜中まで行けないかもしれない。そうしたら僕は、君の家族や向こうの友達に頭を下げなきゃいけなくなるよ」
「……」
 アカネは少しだけ眉を潜めて、レアシスを見上げる。体を離したレアシスは、落ちていた眼帯を拾い上げて、元のように結び直した。
「ごめん、せっかく会えたのにね。もう時間だ。また、フーギンが連絡しに行く」
「……わかったわ。でも、レアシス」
「?」
「私の家族や友達が待っているのは私だけじゃないわ。貴方もよ。それを忘れないで」
 アカネは真剣な顔で言った。レアシスは軽く驚いて、いっぱいに見開かれた碧い瞳を見下ろして、……ふ、と笑った。
「ありがとう」
 少しだけ屈んで、冷えた唇を彼女のそれに優しく当てる。お互いに冷えていたけれど、ほんのりとした熱が生まれた。
「……いってらっしゃい。気をつけてね」
「君もね」
 最後にもう一度だけ微笑むと、彼はいつものように魔法と跳躍で空から消えていった。アカネはほう、と息を吐いて、箱からサリー一式を持ち上げる。
「?」
 箱の底に、何かのカードが張り付いている。赤いリボンの、ヒイラギの葉っぱが装飾されたクリスマスカード。
 何の変哲もない……

『Merry Christmas. Thank you for loving me.』

「……」
 アカネはきゅ、と唇を引き結んだ。サリーのストールを胸に抱いて、何か、決意を込めたような目で彼の消えた空を見上げた。
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*COMMENT-コメント-
▽地味でいいな
しみじみ、いい雰囲気の2人。何だか絆が生まれていてうれしい。
アカネ、お母さんはうれしいよ。
やっぱり、れーくんは甘えモードになるのね、くすす……。
▽甘え下手なのか甘え上手なのか…
私がカップリングを書くといつもこんな感じに…何故でしょう。
初々しいカップルとか書けないんじゃないだろうか(笑)
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織姫のお仕事
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カルミノ編 1日目 『桜降る夜の森に』 2日目  『雷鳴の封印』  『拾い子』  『森の中の星空』 3日目  『再生の呪文』  『春日なる』 4日目 祝宴 お茶会  『おすそわけ』  
イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
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『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

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イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
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