忍者ブログ

《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

2017.071 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31

『mezzo forte』上

長くするなって言ってるのに…上下で終わらせろよー、自分。

『I'll be there』後日談、『FRIENDS』の翌朝、あかねれー設定。
ブリギットの薔薇が咲くまでもうちょっと。

==========================================
 
 一杯のマグカップに注がれたお茶で暖を取りながら、アカネは目の前の白い竜を見上げる。
 湖畔の切り株に腰掛けて、ルパのケープに身を包んで。水と緑の匂いのする、胞子の雪が降る場所で、ずっと彼を待っていた。
「ねえ、やまわろ」
 ずっと山の稜線を見つめていた鎌首が、初めてアカネの方を向く。
「あなたはいつからあの人を見ていたの?」
(……さて)
 エイロネイアで初めて彼と会って、それからイドラで再会して、あの人が私のもつれた糸を解いてくれて。
 それからしばらくして、年老いたミヅチはアカネにあの子をよろしく、と言った。まるで、自分の息子を託すかのように。
 アカネが理由を聞くと、やまわろは彼をずっと見てきたからだ、と答えた。
 こめかみを揺さぶられるように、頭の中に声が響く。
(ずっと前からだ。あの子がヤマハギの樹の背丈を越える前から、ずっと。理不尽に切り裂かれた運命と、命をずっと見続けていた)
「……」
 アカネは沈黙した。やまわろは金色の目を細めて彼女を見下ろす。首をぐるんと旋回させて、もう一度、山の稜線を見る。山間の聖堂からは煌々と灯りが放たれて、少年の駆ける音はまだ聞こえない。
(……聞きたいか?)
「え?」
(君には酷な話かもしれん。あの子はだからこそ、君に聞かせたがらない。正常な人間には毒にしかならない話だからな)
「……」
 アカネは茶色の液体が揺れるカップを見下ろして、逡巡する。そして顔を上げた。
「見たいわ」
(見たい?)
「あの人の見てきた世界。あの人が見ている世界」
 それはタブーかもしれない。人が人の心を覗く。本来なら、あってはならないことだから。でも、アカネは気づいている。このままじゃ、あの人はいつまで経っても独りぼっちで居続ける。私も、カシスやクロイツのような部下も、あんなに仲の良いエクルーやリィンも、置き去りにして。
 やまわろはそのアカネの思いを汲み取ったのか、ぐるん、と頭を下げてアカネに近づけた。大きな金の瞳が、目の前に下りてきて言った。
(さて。私の知り得る限りの事はここにある。君の今の力なら汲み取れるはずだ)
「……」
(だが、あの子の味わってきた闇、屈辱、苦痛、孤独、絶望。世界中から負を象徴する言葉をかき集めても足りないだろう。それでも見るか? 君に耐えられるかな?)
「……わからないわ。でも、私は知らなければいけない気がするの」
 やまわろはしばらく沈黙した。アカネは目の前の大蛇の額に手を伸ばす。白い水神は、その手を、ついには止めなかった。


『mezzo forte』


 ルパに乗るのは久しぶりだった。一番近い集落から、ルパを借りようとしたら、許可された二頭は見覚えのある顔でアカネに擦り寄ってきた。アカネは驚いて彼らの頭を撫でる。
 不思議そうな顔をするレアシスに、「タイムとマジョラムよ」と言うと、一頭が彼の肩口に甘えるように擦り寄った。あのとき、彼が乗っていたタイムの方だった。彼は微笑むとルパの鼻面を優しく撫でる。
「懐かしいわね」
「ああ、そうだね」
 あのとき、彼に縋って話を聞いてもらったのはアカネの方だった。幼かった恋の、幼い失恋の拙い話。
 今度は逆だ。同じルパに乗って、同じ道を辿って、でも今度は彼の話を聞きに行く。
 馴れたもので、二人とも手綱を握って柔らかな背中に跨る。日頃、扱い難い軍馬と気性の荒い竜を従えている彼にとっては、いくら久しぶりといえど、楽な動物なようだった。
 数回大きく円周して、すぐに感覚を取り戻す。
「……行こうか」
「ええ」
 吐き出した声は、ほんの少しだけ硬かった。


「……ネ、アカネっ!!」
 遠くにエクルーの声が聞こえて、アカネははっと覚醒した。白いケープを纏ったまま、切り株に持たれていたアカネはぱちくりと目を瞬かせて、目の前の二つの顔を見返した。
「エクルー……、アル……?」
「大丈夫か?」
 優しい声色でアルが問いて来る。何故、二人がここに? というか、私は何で気を失っていたの? やまわろのいる神樹の湖でレアシスを待っていたはずなのに。
 ……レアシス?
 ―― っ!!
 気を失う直前まで見ていた映像が、瞬間的に頭の中に流れて、アカネの顔が一気に真っ青になった。そうだ、確か自分はやまわろに彼の過去を教えてくれと言った。
 そうして、やまわろの額に触れて、流れ込んできた記憶の断片に……耐え切れずに、そのまま気を失ってしまったんだ。
 悲しくて、哀しくて、とても、とても痛めつけられた、そんな記憶の断片。
「アカネ? 何があったんだっ!?」
 声も漏らせずに、アカネの青い瞳から零れ落ちた雫を見て取って、アルが焦った声を上げる。何かを返そうと思うのに、涙で喉が詰まって何も返せない。
 体中が痛かった。でもこの痛みは、彼の記憶のほんの断片でしかないのだ。これだけでも耐え難いのに、彼はこの何倍の痛みを抱えているというの? 今、この瞬間も?

『生まれたときに実の母を殺しました』
 違う。あなたが生まれたからじゃない。ただ、魔物に巣食われた男が優秀な遺伝子を欲して、その哀しい結末に生まれてしまったのがあなただっただけ。
『6歳のときに腹違いの兄を殺しました』
 違う。あなたがほんのちょっぴり、兄より頭が良くて、武芸に長けて、魔力が強かっただけ。魔物に取り付かれた父が、あなたを皇太子に選ぼうとして狂気に走ってしまった。一歩違えば、殺されていたのはあなただった。
『7歳のときに義理の母を殺しました』
 違う。理不尽に息子を殺された母親が、狂気の剣をあなたに向けてしまっただけ。あなたは自分を守ろうとしただけ。無理矢理植えつけられた、歪んだ力が有り余ってしまっただけ。
『16歳のときに唯一の親友を殺しました』
 違う。彼はあなたを救いたくて一人、走りすぎてしまっただけ。それが不幸を呼んでしまっただけ。彼は生きていたじゃないの。今は、あんなに幸せそうに笑っているのに。
『19歳のときにとうとう父を殺しました』
 違う。あなたがしたことは父親の悲しい亡骸を葬ってあげただけ。縛られた魂を解放してあげただけ。お父様は天上であんなに安らかに笑っていらっしゃるのに、あなたにはどうして見えていないの?

 みんな、あなたのせいじゃない。
 それなのに、

『皆を殺してしまって、ごめんなさい。一人、生き長らえていて、ごめんなさい。生きたいと思っていて、ごめんなさい』



『生まれてきて、ごめんなさい』



「―― っ!!」
 切り裂くような痛みが胸を襲う。容赦のない言葉が、頭の中に轟く。
(大丈夫か?)
 白い大蛇が二人の後ろから声をかける。
「やまわろ……」
「やまわろ、一体何があったんだっ?」
(さて。何もない。見たいと言ったので、あの子の記憶の断片を少々解放しただけだ)
「あの子って……」
 エクルーが青くなってアカネを見た。カルミノで最初に見た彼の悪夢が脳裏に蘇る。アカネが弱弱しく頷いた。ぽたぽたと、大粒の雫が大きな目から溢れて落ちていく。
「……聞いたんだな?」
「……」
「……ごめんなさい、って……レアシスがずっと謝ってるの、聞いたんだよな?」
 アカネはこくり、と頷いた。
「あんな……あんなのって……」
 何かを言おうとして出来なかった。あまりにも理不尽で、あまりに唐突に、どんどんかけがえのないものを奪われていく恐怖。奪われていくのに、彼は自らの手で断ってしまったと思っている。そのせいで延々と苦しみ続けて生きている。
 生まれてきてごめんなさい。それは自らの命そのものを否定する言葉だ。これ以上に、哀しい言葉があるだろうか。
「……どうして謝るの……」
「……」
「私はあんなに嬉しかったのに……。あなたと会えて良かったって、レアシスに会えて本当に良かったって思ってるのに……どうしてそんなことを言うの……」
「アカネ」
 アカネの肩をエクルーが掴む。泣きながら、アカネは顔を上げた。
「皆、同じなんだ。俺だって思ってる。レアシスが生きててくれて良かったって思ってる。
 でも、未だにあいつは一人であっち側を向いて座ってるんだ。こっちを振り向いてくれない。ずっと泣いて謝りながら、大きな川の向こうを見てる。ごめんなさい、って」
「……」
「でも、レアシスは俺に言ったんだ。僕を助けてくれ、って。ずるいやり方でも、しがみついて生き延びるって。初めて自分から生きるって言った。言わせたのはきっと君なんだ。
 もう少しであの子の悪夢は覚めるはずなんだよ」


 会話が途切れることはなかった。
 イドラに初めて降った雪のこともあるし、フィールドワークに長けたアカネと図鑑の中でしかないけれど知識が十二分にある彼のこと。野山をルパで歩いて、アカネがふと見つけたもの一つ一つに、レアシスは頭の中にある知識とエピソードを引っ張り出す。
 たまにイドラとエイロネイアで認識の違いもあって、存外に面白い。例えば片方では縁起の良いものだったり、もう片方では悪いものだったり。薬と言われていたり、毒と言われていたり。生で食べるのが普通だったり、煎じるのが普通であったり。
 でも優劣はない。ただ違っただけ。違いは知ることが出来る。お互いに理解することが出来る。
 馬よりも大分、軽い足音を立てて、ルパが止まった。懐かしい水の音と匂いがする。
 凍えたユキヤナギが垂れている。懐かしい場所だった。その瞬間に、自然に会話が切れた。
「……下りようか」
「ええ」
 固唾を飲み込んだのは、ほぼ同時だった。
PR
*COMMENT-コメント-
▽れーくん、ありがとう。
うちのアカネを信じてくれて、アカネをもらってくれてありがとう。泣けないでいたエクルーを、泣かせてくれてありがとう。見守るだけで、何もできなかったやまわろを許してくれてありがとう。
みんな、こんなに君を愛しているのに。
▽今、連れて生きます。
アカネちゃん、無理矢理にでも治療してくれてありがとう。エクルー、無償の愛情をくれてありがとう。やまわろさん、ずっと見ていてくれてありがとう。

レアシス=レベルト。お母さんは君を死なせるために生み出したわけじゃないよ。一緒に彼岸の世界から帰ろう。
▽さて……
エクルーの愛情は果たして無償なのかねえ……(にやにや)。

明るく見えて、るーちゃもずっと深い穴の縁で生きてきた子なんです。だからこそ、彼岸に行ってしまいたくなるれーくんの気持ちがわかる。
一緒に帰って来よう。明るい明日のある世界に。
▽たぶん
無償と信じてる(笑)。

エイロネイア編、るーちゃれーくんのターンのタイトルは『will』。
「悲しみ乗り越えた微笑みに 君を信じていいですか?」
*COMMENT FORM-コメント投稿-
  • この記事へのコメント投稿フォームです。
Name:
Title:
Mail:
Url:
Color:
Decoration: Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Message:
Pass: ※編集時に必要です。
Secret:  ※チェックすると管理者へのみの表示となります。 
*TRACKBACK-トラックバック-
  • この記事のURLとトラックバックURLです。
  • 必要に応じてご使用くださいませ。
この記事のURL▼
この記事のトラックバックURL▼
目次(ヴァル)
「姫おり」過去編
織姫のお仕事
     4.0
   4.1 4.2

カルミノ編 1日目 『桜降る夜の森に』 2日目  『雷鳴の封印』  『拾い子』  『森の中の星空』 3日目  『再生の呪文』  『春日なる』 4日目 祝宴 お茶会  『おすそわけ』  
イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
いずみるーver. 『夢一夜』   『はじめの一歩』 外々? 『グレイの冬空』 『リィンの探検記』 『舞初め』 『忍ぶれど』 『色出でにけり』 『未遂』 『Fly me to the twine moon(その1)』 『ラプソディー(その1)』
すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
 出口1
『嘆キノ森-PSI-missing-』
     

カルミノ編 前夜祭 『Happily Ever After』01 1日目 『Happily Ever After』02 『Happily Ever After』03 『Happily Ever After』04 『Happily Ever After』05 2日目 『Happily Ever After』06 『Happily Ever After』07 3日目 4日目 祝宴 お茶会  『romanesque』
イドラ編 あかねるーver.  『flying』  『アイルキスユー』  『輪舞-revolution-』

かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
シュアラ編 『Front breaking』 『Dell'oscurità per brillare』 『End symptom』 【露癒の祀】 拾壱>拾弐
エイロネイア編  『daily workⅠ』 『覚醒ヒロイズム』 EPISODE1 EPISODE2
最新コメント
[09/12 梧香月]
[05/16 Backlinks]
[12/16 ヴァル]
[12/15 梧香月]
[11/25 ヴァル]
[11/21 小春]
[09/28 ヴァル]
カレンダー
06 2017/07 08
S M T W T F S
2 3 4 5 6 7 8
9 11 12 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31
ギャラリー



漫画



季節のアルバム




漫画
カウンター