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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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『too late? …』 side_A vision2  香月

善良なイドリアンの方々、申し訳ありません。大変お騒がせいたしました。
御気にせず、引き続き、ごゆるりと杯を交わしてくださいませ。(事後アナウンス)

なるたけ原作を参考にしてみました、春祭り直前。イメージはどうなっているか、ちょっとどきどきしています。

本当はここらへんでアカネちゃんにプロポーズするイドリアンのライヴァルでも出す、とかいう鬼展開とかも考えてたけど、アカネちゃんが余計苦しむだけなので却下。
男ならともかく、女の子いじめいくない。男ならともかく。

========================
 
 声が、音が、聞こえた。
 何て言っているのかはわからない。何が起きているのかは判然としない。
 ただ僅かに聞こえてくる声と、響いてくる直槍の斬戟が、彼がそこにいることを伝えてくれる。混ざり合った音の中から、懐かしい鼓動が聞こえる。規則を刻む心臓の音。
 小さなその音を必死で追う。混ざり合う剣戟と、焔の悲鳴。触れたことがない、戦の音。それが響くたびに手を握る。感じる鼓動が切れないことを、切に願いながら、耳は塞がない。鼓動を追いかけ続ける。
 まだ、まだ大丈夫。まだ……

「何故、本気を出さない。腰抜けか――。ならば、そんな者に皇帝を名乗る資格などない」

 ――!

「これで最期だ。散るがいい、雷帝ロレンツィア――っ!」

 業炎の音が、振られた凄まじい剣戟が、かすかな鼓動の音を、埋め尽くして蹂躙する。
 もう炎しか聞こえない。空間さえも焼き尽くす、地獄の業火。その中から必死に音を探す、拾う。でも手のひらをすり抜けるのは、灰ばかり。
 ―― いや、いや……っ!
 炎を掻き分けて探す。でも、望んだ音は聞けなくて。炎がすべて灰に変わっても、剣戟が地に突き刺さっても。
 それでも探して求めて、澄ます耳に、ぽつりと、声が聞こえた。

『――すまない』

 ―― ・・・っ!


「・・・いやぁあっ!」
 目が覚めたのは自分の声が響いたからだった。自分の部屋の白い天井が霞んで見える。息が上がっていた。額と背中にはびっしょりと脂汗がこびりついている。
 肩で息を吐きながら、アカネはカーテン越しに窓から差し込んでくる弱い日光を見る。
「朝……」
 深く深く溜め息を吐く。喉が恐ろしく渇いていて、掠れた声になっていた。
「夢……」
 ベッドの上から半身を起こして、膝を立てる。
 ―― ……違うわ。
 夢、じゃない。
 2週間前。
 イドラに戻ってから日課になった泉での祈り。あの人の鼓動を追う毎日。その最中に、脳裏に浮かんだ紅い光景。
「―― っ」
 アカネ濡れた頬を膝に押し付ける。拭う。
 その光景を見て一日もしないうちに、エイロネイアの動乱が終わったという報せが届いた。けれど報せを届けてくれたのは彼の鴉ではなく、辰砂だった。エクルーも一緒だった。
 動乱が終わって、シュアラとクロキアが沈静化して。彼はその場でばったりと倒れたらしい。エクルーは緊張の糸が切れたのだろう、と言っていた。けれど、何故だか今もまだ、面会することも叶わずに謝絶状態だった。
 ……辰砂とエクルーが言うように、無事だと言うなら、ちゃんと本当の目でその姿を見たかったのに。早く顔を見せてくれたらいいのに。

 いつからか、アヤメやイリスに追いつくくらい、今まで感じなかったものを感じるようになった。視えなかったものが視えるようになった。
 優秀な巫女である姉や母を羨ましく思ったこともあった。でも、いざ視えるようになって、こんなものを突きつけられるなんて。
「……ぅ、う……」
 膝にかけた毛布にぽたり、と斑紋が落ちる。
 視えるようになんてならなければよかった。あんなものが視えなければ、きっと今も彼の目覚めを祈ることも出来ていたのに。あれきり視えない。彼の鼓動もノイズだらけで聞こえない。何でこんなに中途半端なんだろう。本当に眠っているだけ? 今、どこで何をして、どんな状態なの?
 今さらのように最後に会った温もりを思い出す。

『春祭りには間に合わせるよ。春の乙女さまの機嫌を害して、取り返しのつかないことになると困るから』

 春祭りまで、あと1週間。
 窓の外では遠くから、準備の賑やかな音が聞こえてくる。
 ――私も行かなきゃ……
 祠での潔斎が乙女の仕事だ。メドゥーラの恩恵で、イリスのときとは違い、アヤメやアカネは月が昇れば家に帰ることを許されていた。でも、それまでは祠での修行と潔斎をしなくてはならない。
 こんこん、とドアがノックされた。
「アカネ? そろそろメドゥーラのところに行くわよ?」
「うん、わかってる。ちょっと待ってて」
 慌てて目元を拭って、身なりを整える。
 ……早く、顔を見せてくれたらいいのに。本当に、取り返しのつかないことになっても知らないんだから……。
「必ず帰るって言ったんだから……。早く、……帰ってきて」



「……」
 まあ、圧巻というか、何というか、呆れるしかないというか。
「……男、って……哀しい生き物ね」
「まあ、そう言ってやるな。大多数の男は本気じゃないさ、縁起物だからな」
「にしたって去年の20倍くらい集まってない?」
 私のぼやきに近い言葉に、メドゥーラが答えてくれる。
 目の前に積みあがっているのは米の袋の山と、ずらりと並んだ酒瓶の数々。
 食べごろの果実もどっさりと後ろに控えている。一応、私の弱冷気の呪文をかけて保存状態を良好にしている。初めてここに来た年にやったら、存外に喜ばれた。冷蔵庫、っていうものがないもんな、ここは。
 これらすべてが今日までに祠に届けられた供物である。要はお布施というやつだ。数日前からメドゥーラが制限を出して、小指の肉級より大きなものは持ってこないこと、と宣言した。ちなみにイリスのときは人差し指だったらしい。
 ああ、アヤメとアカネで、単純計算で2倍だもんね……。
 どこか冷めた思考で考える。
「乙女だけじゃなく、今年は侍女も盛りだくさんだからね。みんなはしゃいじまってるのさ」
「そうは言ってもねえ……」
 集まったイドリアンは青豆一つ、干しぶどう一粒を供えて、祭壇の上の二人の乙女を拝んでいく。
「初めて見たときも何だかなー、とは思ったけど。毎年、ほんとにご立派な集団お見合いだわ」
「まあ、この供物もどうせ自分の腹の中に収まるんだ。自分で食べるもんを貯蔵しているようなもんさ。それにイドラでは双子は吉兆だしね」
「ふぅん。吉兆、ね……」
 私は祭壇の上の乙女に目をやる。目を伏せ気味にして、2人で通しの練習をしている様は、確かに同性の目から見ても綺麗なもんだ。
 吉兆か。吉兆ついでに本当に運が回ってくれりゃあいいんだけど。
「こんだけ特盛りならあんたの孫も気が気じゃないんじゃないの?」
「リィンか。まあ、アヤメは昔から本質を違わない子だから大丈夫さ。それより……」
 私の視線を見て取ったのか、メドゥーラの声のトーンが落ちる。
「もう一人の黒い男は無事に乙女を攫いに来るんだろうね?」
「……たぶん」
「……あんたにしちゃ歯切れが悪いね」
「乙女に腹破られたくらいでお陀仏するようなタマじゃない、と言いたいところなんだけどねえ……」
「何かあったのかい?」
「……」
 少しだけ迷った。言うべきだろうか、否か。いや、メドゥーラだし。本当はお見通しで聞いているのかもしれない。
 ……どうにしろ、学術的にも精神面的にも、こんなことは私の専門外。
 ―― ……まあ、仕方ない、か。
「わかった、メドゥーラ。あんたなら短気にも走らないだろうし、信用する」
「……今さら驚くようなものなら、とうに見てきているさ。
 あんたも一人で隠し通すもんじゃない。祠の中に席がある。おいで」



 朝に覚えた喉の渇きがどうしても癒えてくれなかった。水は飲んだはずなのに、汗となって流れたせいなのだろうか。舌は喉に張り付いて、上手く声が出せない。音を聞いて、流れを感じて、アヤメと声を合わせようとして、枯れた喉は出すつもりのない声を出してしまった。
 その場にいた皆が心配そうにアカネを見た。アカネは真っ赤になって俯いて、頬を伏せる。
「アカネ。水を飲んでいらっしゃい。朝から練習してるんだもの、私も喉がからから。持ってきてもらえる?」
 即座に傍らからアヤメがフォローした。背中に添えられた手に感謝しながら、アカネは頷いて立ち上がり、逃げるように祠の中に向かった。
 ひんやりとした祠に入って、ほう、と息を吐く。
 ちらりと外を見ると、祭壇にあがってアヤメに話しかけているリィンの姿があった。脂汗と頬の赤みが同時に出ていて、尻尾は相変わらずぴんと立っている。少し、微笑ましくて、ちょっとだけ羨ましかった。
 ―― ……いけない、いけない。
 もうそんなことは考えないと決めたのだ。私も彼の隣に相応しい女性になるって。
 踵を返して祠の中の泉に向かう。
「……?」
 中からペヨの酒の匂いがしてきた。この時期、祠の中で酒盛り? メドゥーラか誰かがいるのだろうか。
「……なるほどね。事情はわかった」
 いくばくも進まないうちに、そのメドゥーラの声が聞こえてきた。声の聞こえた方向に意識を向けると、こなれた彼女の大きな気配の隣に、これもなれた気配がする。烈火のような、けれど静まり返る湖面のような。
 ――ルナ……?
「心配するでないよ。もともとここの連中は、他人の世話が大好きな奴らばっかりだからね。いざってときの心配はしなくていい」
「まあ……そりゃ、私だってそっちの心配はしてないのよ。けど、このまんまだとあんまりアカネが可哀相で」
 ――……? 私の……。まさか……っ!
 アカネは唇を引き結んだ。祠の壁に耳をつけて、神経を研ぎ澄ます。
「……あんたがイドラに来てくれてよかったよ。そういう判断ができる人間は少ない。あんたがアカネの味方でよかったね。イリスとジンも感謝するだろうさ」
「そんなことはどうでもいいのよ。私は人として正しいと思った判断をしただけ」
「それでもさ。……それで、まだ治る看込みはあるんだろ? あの子は」
 ――治る、看込み……?
 握ったアカネの手のひらに汗が溜まっていく。次のルナの言葉を待った。
「一応はね。けど、」

「……二度と、戻らない可能性もある」

 ―― っ!

 ごとんっ

「!」
 石壁の向こうから響いた鈍い音に、ルナは腰を浮かした。ぱたぱたと軽い足底が石床を叩く音がする。
 ルナはペヨの酒杯を倒して立ち上がり、石壁の入り口に張り付く。白い花嫁衣裳の裾が、一瞬、視界に入った。
「! メドゥーラ! 気づかなかったの!?」
「すまん。今日は人が集まりすぎている。泉の声はクリアーだが、その分人の声が聞きづらい」
「ちぃっ!」
 ルナは舌を打って祠の中から飛び出した。祠の入り口から少し離れたところで、側のクヌギの木を仰ぐ。繋がれていたはずのチドリの縄が、だらんと枝に垂れていた。
「・・・っ! あんの、お馬鹿っ!!」
 顔を片手で覆って、指笛を吹いた。賑やか過ぎるほど騒がしい祭壇の向こうから、とさとさと草を踏む音がして、翡翠色のジェイドの毛並みがイドリアンたちの尻尾の合間から見えた。だが、至るところで行われている酒宴に阻まれて、こちらまで来ることができないでいる。
「ちょ、あんたたち、少しどいてもらえるっ!?」
 こういうときほど己の背の小ささを呪うことはない。いくら声を張り上げても、長身のイドリアンたちの杯を交わす声にかき消されてしまう。
 ぶちっ。
 ――面倒くさいっ!!

 ・・・ずがんっ!!

 イドラの空に、けたたましい音を響かせて焔が舞った。さしものイドリアンたちも一気に酔いがさめたらしく、ぴたりと動きを止めて、青筋を立てた赤装束の魔道師を見遣った。
「……通行のジャマなんだけど。ちょっとでいいからそこ、どいてもらえる?」




===========================
補足:たぶん、メドゥーラは本当は気がついていたような気がする。
…たぶん、ほら、春の乙女って一回殺されないといけないから(どんなフォロー)。



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*COMMENT-コメント-
▽まあ、計算済みなんでしょう
メドゥーラは女の子でも容赦しないから。イリスに記憶を返したように。
復活を信じているというより……再生に賭けているって感じでしょうか?

春祭り準備の雰囲気、すでに懐かしいです。見事な再現、ありがとう。
▽メーさん最強
ラストにメドゥーラとアルテミスのおっそろしい会話を入れようかとも思ったけれど、怖かったのでカット。
神のみぞ知るはずの結末も悟ってそうで怖い。

どきどきものでした。ありがとうございます。
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