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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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『too late? …』 side_R vision4  香月

『too late? …』side_Rの第4話。
書いててちょっと心配になってきた。夫婦揃って……。

そして何回目だろう。ごめん、るーちゃ。

==========================
 
 ……懐かしい匂いがする。
 何だろう。淡くて甘い香り。夏の朝日ではなく、遅い春に咲く白い花の香り。泣きそうなくらい懐かしい。
 ぴちゃん、と小さく、音。あれは、水? 青い水の音。雫の音。清清しい匂いが、胸を締め付けてくる。何故だろう。……思い出せないのに。
 遠くから声がする。楽しそうな笑い声。何故だかひどく遠くて、無性に寂寥が胸に去来する。何故だろう。……何も覚えていないのに。
 理由もわからないままに、熱いものが込み上げて、零れていく。
 思い、出せない、のに。
 苛烈なまでに一つの感情が、胸の中に広がっていく。

『―― ……たい』

「……」
 薄っすらと目を開いて、瞼が乾いていたことを知る。
 ぼんやりとした視界に鮮やかな色が写って、遠くから聞こえていた声が次第にクリアになった。身をよじると、きしり、と小さくベッドが鳴った。
「あ、へーかさまおきたのー♪」
「……ここは……」
 いつのまにかベッドの脇に置かれた台テーブルの上で、せわしなく手を動かしていた小さな少女が振り返る。くるん、と巻き毛にした、染料じみた色の緑の髪が踊る。くるんとした目は青いガラス玉だった。
「へーかさま、お目覚めなの♪」
「へーかさま、大丈夫なのっ?♪」
 やたらと楽しそうにぴょこん、ぴょこん、と同じような背丈と顔の少女が2人、次々と振り返る。けれど髪の色とガラス玉の色は個々に違って、一人は紫の髪と紅色の目、もう一人はショッキングに近いカラーのピンク色の髪と飴玉のようなオレンジの目をしていた。それら3つがくるん、と首を回す。可愛いといえば可愛いが、ちょっと異様だ。
「ごめん、少し騒がしかったね。起こした?」
「エクルー……僕は……?」
「検査の後、眩暈がしたみたいで倒れたんだよ。どこか痛いところない?」
「あ……ああ……大丈夫。少し、体がだるいかな……」
 ベッドから半身を起こそうとして、失敗した。くらり、と目の前で火花が舞う。
「無理しちゃ駄目だよ。あの機械、身体に害はないけどちょっと消耗するんだって。ゆっくり寝てていいから」
「ごめん……」
 ベッドの中に身体を戻しながら、ふと視線を大きなテーブルの上に投げる。蝶をあしらったレースのシートの上に、色とりどりの金縁、銀縁の長い絹のリボンが並び、幾重にもレースと柔らかなシルクコサージュが積み重なっている。脇にはスパンコールケース。そして、
「……よく、摘んできたね。そんなにいっぱい」
「数日、ヒマしてるうちに大体、どこに何が咲いてたか覚えちゃってさ。助かったよ。イドラにはこの時期、花が咲かないから。
 シルクフラワーで代用しようかとも思ったんだけど、本物が咲いてるなら、使わない手はないなと思ってさ」
 テーブルの上には大輪の白薔薇を中心として、早春の花が散りばめられていた。かすみ草、カモミール、百合咲き、八重咲きのチューリップ、マーガレットはリーフとオペラ、飾り用のイチゴ、グリーンはアイビーとユーカリ。
「君に黙って失敬してきちゃった。悪かったかな?」
「いや、僕は別に……。でも、何でこんなにたくさん? 皆、何してるの?」
「ブーケ作りしてるのー♪」
「花嫁さんのブーケなのー♪」
「かわいーの作るのー♪」
 よく見ると彼女たちの前には、ブライディとブーケスタンドがどんと置かれていて、センターの薔薇とサブグリーンの花材が中途半端に差してある。彼女たちは手に手に霧吹きとワイヤー、フローラルテープを誇らしげに翳していた。
「ほら、前に話したじゃん。イドラの春祭りでさ、がんばってる女の子たちがいっぱいいるの。俺はそのお手伝い役なんだけど、この子たちが手伝ってくれるっていうから……」
 ――……。
 頭のどこかが軋んだ。イドラ。春祭り。………駄目だ、どうしても何も出て来ない。
「メルだめなのー。お花は真横に差したらめーなのー♪」
「マールはオアシスが見えちゃってるのよー、めーなのー♪」
 叱りあっているはずなのに、彼女たちはいつも何となく楽しそうだ。こちらまで何となく、笑えてきてしまう。
 きりきりとした頭のかすかな痛みが、自然とふっと和らいだ。
「お昼から寝てたけど、お腹空いてない?」
「あ……ううん、あんまり……」
 首を振るとエクルーは少しだけ表情を俯かせた。目が覚めた日以来、毎日がベッドの生活が長かったせいか、検査疲れが多いせいか、あまり食欲の湧かない日が続いている。こういうときに首を振ると、何故だか彼は一番哀しそうな顔をして俯いた。
 けれど、彼はすぐに気を取り直したように顔を上げて、
「レアシスにも造ってあげようか? ブートニアくらいならすぐに出来るしさ」
「あはは、僕は女の子じゃないよ、エクルー」
「これは男でも女でも効くんだよ。願い事が叶うんだ」
「願い事?」
「うん、一番叶って欲しい願い事」
 ―― ……願い、ごと……。
 ひくり、と琴線が震える。願い事、一番したいこと。叶って欲しいこと。……記憶を取り戻すこと?
 ―― ……違う。そうじゃない……。
 ちゃり……。
「……」
 俯いた拍子に、かすかな音が鳴る。ベッドについた両手の片方――左手首に括りつけた、牙の形をした小さな石が鳴る音だった。
 目が覚めてから、いや、目が覚めるずっと前から左手にこの感覚があった。そして見るたびにいつも、得体の知れない感情が、懐かしさと共に暴れて満ちるのだ。
「レアシスが欲しいもの、何でもいいから言ってみて。何でもいいよ。食べたいものでも、会いたい人でも」
「……」
 目を閉じる。ベッドの端に腰掛けながら、がんがんとなる頭を抑えながら、俯いた。
「……ずっと思ってることがあるんだ。目が覚めてから」
「思ってること?」
「……おかしなことなんだけどね。笑わないでもらえるかな?」
 エクルーは首を振って「笑わないよ」と答えた。それでも彼はもう一度確認してから、自ら首を捻った。しばらく沈黙が続く。長い間を空けて、彼は思い出したようにぼんやりと口にする。


「……帰りたい」


「……」
「おかしいよね。僕の家はここで、故郷もここのはずなのに、こんなこと思うなんて」
 ここは故郷のはずだった。青い空があって、大きな場所があって、支えてくれる皆がいて、それで十分なはずだった。
 それなのに、何でこんなことを思うんだろう。思ったりしているんだろう。何度も夢に見るんだろう。
「きっと行きたい場所があるんだね。それか、会いたい人か」
「……そう、なのかな……」
 ずきり。
 ――っ。
 また頭の中に痛みが走る。
「慌てずに、ゆっくり自分で思い出した方がいいよ。ゆっくりでいいから」
「……ごめんなさい」
「レアシスは余計な心配しすぎなんだよ。今はゆっくり休んで、皆に甘えるのが仕事だよ」
「……」
「食欲がないなら、マンゴープリンだけでも食べない?」
 花の匂いに紛れてわからなかった。けれど、聞いた途端に甘い匂いが鼻をつく。
 気がつくと、台テーブルの上に平型のグラスが複数あって、一つにだけ橙色のプリンが残っていた。
「……僕の分ですか?」
「うん、厨房のシェフとかアリッシュとかに聞いてさ。なるたけ君が子供の頃、食べてた味とか、好きだった味に近づけたつもり。結構、研究したんだよ」
「わざわざ? 僕のために?」
「うん♪」
「……何で……?」
 眉根を寄せて首を傾げる。エクルーはわしゃわしゃと、黒髪の頭を撫でた。
「レアシスは『思い出したい』って言ってたじゃないか。俺は友達だもん。協力させて、いや、協力したいんだ」
「……」
「だから遠慮しないで甘えてくれよ。心配なんだ。そのままじゃあ、また倒れちゃうよ?」
 彼は目を伏せた。しばらくの沈黙が降りる。ぴょん、と椅子を降りた人形の一人が、ちょこん、とグラスを差し出した。
 彼はしばらくそれを眺めてから、スプーンを取る。
「……おいしい」
「おいしい? ほんと?」
「これ、本当にエクルーが作ったの?」
「うん、うん。よかった、食べてくれて」
 相変わらず頭を撫でるエクルーの目の端は、少しだけ潤んでいた。
 ―― ……。
「エクルー」
「ん?」
 ―― ……ごめん。
「パンスープも頼んでいいかな? マール、ミル、メル。エクルーを手伝ってあげて」
 エクルーの顔がぱっと明るくなった。愛らしい人形たちが、「はーい」と挙手をしながら立ち上がる。
「食欲出て来た? うん、実はほとんど用意はしてあるんだ。すぐに持ってくるから待ってて」
 一気にまくし立てると、エクルーはやや慌しく部屋を出ていった。人形たちが「ちょっと待つのー!」と口々に文句を言いながら、ぱたぱたと後をついていく。
 残された作りかけのブーケの、白い薔薇の花弁がはらりと一枚、テーブルの上に落ちる。
 彼は数秒、瞑目して左腕を持ち上げた。ちゃり、と僅かな音。きりり、と痛みがまた身体に走る。
「……思い、出さなきゃ」
 少しくたびれたミサンガの、くくりつけられた赤い牙のアミュレットが、ランプの照明に秘めやかに輝いた。


「お待たせー、レア……っ!」
 ノックをしてから扉を開けたエクルーの目が、大きく見開かれた。
「? どしたー?♪」
「どちたー?♪」
 ごろがらとワゴンを押す人形たちが、文句をはやし立てる。エクルーは扉を大きく開け放つと、慌ててベッドに駆け寄った。後から人形たちも顔を見合わせてついて来る。
「? 陛下さま、いないのー?♪」
「のー?♪」
 人形たちが揃って首を傾げる。エクルーは呆然としたまま、もぬけの殻になったベッドの、皺の寄ったシーツを眺めていた。
 風が入ってブーケの花を揺らす。開け放たれたままの、窓から入る春風が、群青のカーテンを静かになびかせていた。


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*COMMENT-コメント-
▽いちゃいちゃーっ!
オイ、本当に婚約者のいる嫁取り前の男か?
このっくらい甘い言葉をイズミに言ったことあるのか? るーちゃ。イズミが甘やかしてくれるからって、頭に乗ってるぞー?
▽注:ほとんどの台詞はチャット抜粋です(笑)。
ねえ…。本当に何故だ。未来の嫁さんが確定してる男の会話じゃない。
イズミちゃん、ときには甘やかさなくていーのよ?

そしてるーちゃ、残念。次回で打ち止めだ。
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すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
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かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
あかねれー 『Never more』  Ⅰ.undelete 『I'll be there』   final 『FRIENDS』     『mezzo forte』     『赤い涙』     『too late? …』  Side:R   Side:A  Final!
ありしん 『瑠璃の鳥』    
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