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《賢者の石対策本部:みんなで幸せになろうよ》

谷地田ヴァルゥと、梧香月さん、日和小春さんの合作世界です。 原作で不遇なヤツ、不憫なヤツ、”双子の月が廻る世界”でみんな幸せになろう。

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豆喰うヤツらとカタツムリ

オペレーターがカウントダウンを始めた。
「5、4、3、2、1……臨界です。30秒、電圧保ちます。29、28、27……」
 スートラは努めて期待しないよう自分に言い聞かせた。すでに数え切れないほど失敗している。この5年間、何の進展もない。故郷の星から持ち出した薄緑の鉱物。この鉱物の薄片を樹脂に封じ込めたパネルがアームに固定されている。臨界点の電圧をかけて15秒から30秒で共振が起これば強烈な赤い発光が観察されるはずなのだ。
この共振こそワームホールを越える推進力……発見者のレポ博士の名前を取ってLドライブと呼んでいる。スートラと妹のダナスを含めて約300名の難民が9年前、Lドライブで航行する船に乗って銀河連邦圏に逃れて来て移民局に保護された。彼らの育った母星ラークは衛星ノーチの軍事政権に制圧されて以来、混乱と疲弊が続いている。ノーチの占領軍の兵士達は平均身長10センチ。対してラーク人の身長は2メートル前後。どんなにセンサーやレーダーを張り巡らせても、防衛網の穴を衝かれて突破される。母星にはまだ多くの仲間が残っている。レポ博士も星に残った。しかし迎えに戻る船が無い。
 母星からの航行で薄片は消耗してもう共振を起こせない。持ち出した鉱物標本はパネルを作るには足りない。標本の構造を調べて、合成方法を探ること5年。研究は完全に手詰まりだった。

「3,2,1……30秒経過。電圧を下げます。共振発光は確認されませんでした」
 冷静を保っているが、オペレーターのロボロも落胆しているのがわかった。ロボロはノーチ人だ。前の政権で要職や知識階級にいた人間も同じ船で亡命して来た。機関士や航海士のほとんどはノーチ人だった。彼らも故郷に家族や知人を残して来ている。航行スタッフは当初Lドライブを再建するプロジェクトに加わっていたが、ノーチ人は短命で病気に弱い。今ではチームにいるノーチ人はロボロ一人だった。直径50センチほどの無菌バブルの中からオペレーションしている。スートラは脱出前、レポ博士の使い走りのような助手をしていた関係でプロジェクト・リーダーに任命されてしまった。

 落としてあった操作室の灯りが戻るとすぐ、滞っていたコールが鳴り響いた。課長からだ。
「報告書はまとめておくから、君、行っておいで」
 行きたくない。スートラは気が進まなかったが、コールを無視できない。プロジェクトは今年が最後。来年も予算がついて継続される見込みがあるのか、甚だ不安だった。無菌バブルを浮遊させて、ロボロはデータを出力し始めた。一回のテストに膨大な費用がかかる。合成鉱物の結晶に意図的に不純物として加える超微量の希少元素がまず高価だ。合成に必要な炉の維持費。エネルギーのコスト。スタッフの人件費。時間も資金もスートラの両手の指の間を砂時計の砂のようにすり抜けて落ちていく。

 柔らかなオレンジ色のライトが点在する深い緑の廊下をとぼとぼ歩いて、移民局保護機関11課の執務室に向かう。保護機関は移民を教育や訓練を与えたり、人材を活用する施設で、独自の大学もある。11課は研究部門だ。移民でも公私様々な研究所で働くものもいるが、移民局付きの機関だと連邦の特別基金がつく。いずれにしろ門前の小僧でろくな教育も受けていないスートラには、11課以外で研究などできない。
 銀河連邦ができて300年。未だにワームホールを越えた有人の船はスートラ達の難民船しかない。航行記録は隅々まで検証されたにもかかわらず、多くの研究者はLドライブを信じていない。通信も届かない”向こう側”に人の住む星系があるなど、またわざわざ多額の費用をかけてそこに向かう価値があるなど、誰も信じていないのだ。我々の他は。対岸まで出かけなくとも、こちら側の移民や難民の問題だけで連邦は手一杯なのだ。

 ノックをするでもブザーを押すでもなく、執務室のドアに立っただけで涼しい音のアラームが鳴った。スキャンが始まって3秒でドアが開いた。
「実験中に申し訳ない。ちょっと混みいった話があったので」
 課長に椅子を勧められたがスートラはポカンと突っ立ったまま、課長の隣に立った紺色の装束をまとった人物を見つめた。
 ビーンズ・イーター。レギュボアとも呼ばれている。ある独特な宗教の信徒で、少数ながら人種、民族関係なく連邦中に散らばっていて、故郷の星にも彼らの小さなコミュニティがあった。でも移民局で見たのは初めてだ。いくつかの宗派があるらしいが、身体をすっぽり包む紺色のマントと裾や襟元を飾る紋様、階級を示す金色の装身具、そして腰まで伸ばした長い髪が共通点だ。年齢や人種的に髪が伸ばすのが難しい場合は、代替のベールがある。ビーンズ・イーターの最大の特徴は性別が分かりにくいこと。元々中性体の多い惑星で始まった信仰らしい。その人物も男だか女だか丸っきりわからなかった。テラ系で顔や手足は無毛。尻尾も見えない。長い黒い髪に暗褐色の目。ビーンズ・イーターを呼ぶ時、”彼”や”彼女”のような性別を特定する代名詞を使わないのが礼儀だ。一人でも複数形で呼ぶ。

「”彼ら”を君のチームに入れて欲しい」
 ということは来年もプロジェクトの予算が下りるということだ。
「まだ公にされていないのですが、先月、ラークからの船が連邦圏に到着した。”彼ら”はラークの難民で移民局に保護された。あなたと同じです」
 まさに青天の霹靂。スートラはショックで口が聞けなかった。ほとんどの人が可能だと信じなかったラークからの航行。9年を隔てて、また有人の船がワームホールを越えた。
「”彼ら”は船の機関士だったらしい。船の推進エンジンはLドライブだそうです」
 希望の見えない日々で忘れかけていた故郷の星の風景や匂いが強烈に蘇った。戦地で孤児になったスートラとダナスを育ててくれたレポ博士もビーンズ・イーターだった。彼らの暮らし、彼らの村、彼らの歌。独特な彼らの挨拶。

「”彼ら”の名はサラ・サシャ。検疫期間はクリアしたが、信仰上の理由で会話が……」
「わかります。サインとビューアを使うんですね」
「そうだった。話が早い。後は”彼ら”に直接聞いてください」

 黙って課長とスートラの話を聞いていた人物が、すっと両手を動かして指を波のように動かした。この挨拶は久しぶりだ。スートラは淀みなく、同じ動作を返すことができた。
 ”初めまして。よろしく”







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織姫のお仕事
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イドラ編 あかねるーver.  『茜さす』  『玉章の』  『ぬばたまの』  『真菰刈る』  『吾ぎ妹子の』  『シュアラの休日』  『天雲の』
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すおみろい  『Baby Morning, Baby Night』  『Be Ambitious, Boys!』  『標野行き』 『Calling』   (上) (下) (おまけ) 『玉響詞(タマユラノウタ)』   『Honey suger hummingbird』 『すみれ色の指輪』 ぱーるる 『しろたえの』 『Agnus Dei』 『Sanctus』 『Kyrie eleison』 『夜の瞳』 『狼の宅急便』
3つ子&小町ズ&あるびー 『山笑う』 『魂100まで』  『明日に架ける橋』 『疳の虫 虫の知らせ』 『鈴猫』 『鬼灯(カガチ)』
あかねれー 『リカバリー70%』 ありしん
シュアラ編
エイロネイア編 らーじー 『風を悼み』 『禊の苑で』 『重なる月に寄せて(その1)』
目次(香月)
「姫おり」過去編
嘆キノ森シリーズ
『嘆キノ森』
 正面左右背後
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カルミノ編 前夜祭 『Happily Ever After』01 1日目 『Happily Ever After』02 『Happily Ever After』03 『Happily Ever After』04 『Happily Ever After』05 2日目 『Happily Ever After』06 『Happily Ever After』07 3日目 4日目 祝宴 お茶会  『romanesque』
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かしるな 『奈落の花』  EPISODE1  EPISODE2  EPISODE3  EPISODE FIN 『Trikstar』 『モノクロのキス』 Side:L 『GLORIA』    EPISODE Final 『TRANSMIGRATION』
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ありしん 『瑠璃の鳥』    
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